文章表現トレーニングジム 佳作「偉大なる先生」松本俊彦
第18回 文章表現トレーニングジム 佳作「偉大なる先生」松本俊彦
中学の理科のテストで、こんな問題が出た。
次の文章の空欄に、適当な語句を埋めよ。「魚類は( )で( )中の酸素を採っているのに対して、人間は( )で( )中の酸素を採っている。」ほとんどの生徒は、えら、水、肺、空気と答えた。私だけが、肺ではなく肺と皮膚と答えてマルをもらった。正確に答えた私を、先生がたいへんほめてくれた。私は、先生と理科が好きになった。
学年の最後の授業の時に、先生はこんなことを言った。
「この一年間に習ったことを、決して鵜呑みにしないように。科学は日々進化しています。もしかしたら、私が皆さんに教えたことは、全部間違いかもしれないのです。」
なるほどなあと思った。確かにそのとおりだ。それまでの常識を覆しながら発展してきたのが科学だ。古代ギリシアの教科書には、地球は平らなお盆のような形をしていると書かれていたのだ。
先日、ネットで調べものをしていて、偶然こんな記述を見つけた。「人間が皮膚呼吸をしているということには、科学的な根拠がない。あれは迷信である。もしそれが本当だったら、ウェットスーツなど着ていられないはずである。」
さすがは先生だ。あれは、ここまで先を見通したテストだったのか。なんて偉大な先生なんだ。先生は、ほかにどんな話をしてくれたかなあ。ううん、思い出せない。