ネーミングの達人になる!
「自分の考えたモノ・コトが、ニュースになる。後世に残る」そんな、公募における一番の醍醐味を味わえるものは何か?
実はその答えが「ネーミング」なのかもしれない。
ランドマークに商品、略称と、多岐にわたるネーミング公募。チャンスは大きいが、それだけにライバルも多い。
ここは一つ、発想法の基礎から学んで、ライバルたちに差をつけよう。
こんなネーミングも公募から生まれた
東京タワー
スカイツリーの出現で、一部、電波塔としての役目を終えた「東京タワー」も、公募で決まった名前。1958年の完成を目の前にして、応募数約9万点の中から選ばれた。最も応募が重複したのは「昭和塔」という名前。ほかに「平和塔」「日本塔」などの応募が多かったとか。正式名称は「日本電波塔」という。
レインボーブリッジ
映画の台詞「封鎖できません!」で一躍全国区になったレインボーブリッジは、1992年に開催された「東京湾をまたぐ吊り橋の名称募集」という公募に応募した、約2万点の中から決定。同名応募者が140人もいたらしい。
東京スカイツリー
この5月についにオープンした「東京スカイツリー」。その名前も、公募から生まれた。全国から寄せられたネーミング案は1万8606点。その中から厳選された6点を候補として、全国のさまざまなメディアで投票が行なわれ、最多得票の「スカイツリー」が選ばれた。「EDOタワー」「ライジングタワー」「みらいタワー」などが最後まで争ったとか。
ネーミングづくりの手順とは
名付けられるモノ・コトには必ず、主張がある。それを抽出して、より多くの人の記憶に残るイメージに変えていくのが「ネーミング」という作業。思いつきや閃きは大切だが、それだけではダメ! まずはネーミングのプロが実際に行っている手順を真似てみることから始めよう。
ターゲットをじっくり分析し、情報を集める
まず始めにしなければいけないのは、ネーミング対象物を徹底的に「知る」こと。つまり、これから名付けようと思うものについての情報を徹底的に集め、分析してみることだ。
対象物が食べ物であれば、味や香り、触感、見た目のイメージから始まって、原料、産地、生産にあたっての技術的な特徴、そして、食べるのに適した時間帯やタイミング、場所まで調べ、ネーミングを始める前の下準備として揃えておきたいところ。これが建物ならば、場所や用途、大きさ、収容人数、近辺のランドマーク、テナントに入る企業イメージなど。動物の愛称なら、見た目の特徴や、生息地、パパとママの名前など。集められる情報はいくらでもある。
集めた情報を一度精査し、対象物の特性や質感をしっかりと把握しておくのが最初の作業。そのために、集める情報は「多すぎる」ということはないのだ。
集めた情報をもとにキーワードを探していく
情報を多岐にわたって集め、ある程度対象物の特徴がつかめたら、それをもとにネーミングのキーとなる「コトバ」を探してみよう。
例えば、対象物が小さくてかわいらしい商品で、「赤ちゃん」というコトバが浮かんだとする。最初にやってみるのは、さまざまな言語に置き換えてみることだ。
英語なら「ベイビー」、フランス語なら「ベベ」、イタリア語なら「ビンボ」といった感じ。これだけでも、新たな響きが見つかるはず。ほかにも、アフリカの言語や、エスペラント語などにトライしてみるのもいいかもしれない。
多言語以外にも、探索のジャンルはいろいろ。コンピュータ用語や天文用語、神話や方言など、幅広く探索のジャンルを広げてみることだ。ネットを活用すれば、広がりは無限。それを楽しんでみることで、意外なところから引っかかりがあるかも。
キーワードを進化させる4つの法則
第2段階で集まったキーワードは、加工前の素材に過ぎない。キーワードを名前に進化させるためにプロが用いる法則が4つあるので、紹介しよう。
素ネーミング
キーワード出しで集めたコトバにインパクトがあった場合、そのままネーミングにしてしまう。
例 「PRESIDENT」(ビジネス雑誌名/「社長」の意)
足し算ネーミング
キーワードとキーワードを足して組み合わせによってインパクトを生み出す手法。
例「シーチキン」(海のSEA+鶏CHICKEN)
引き算ネーミング
キーワードのぜい肉部分を削ぎ落として、省略形にする手法。
例「マジックリン」(マジック+クリーン)
掛け算ネーミング
ワードの一部(例えば最後)をカットして、もう一つのワードと掛け合わせる手法。
例「So-net」(SONY+Internet)
出来上がったいくつかの案を徹底的に絞り込む
応募するネーミング決定までに用意する思案は、最低でも30案は欲しいところ。それを目標にしてネーミングのフィニッシング作業をしよう。そして出揃ったら、そこからが正念場。数打ちゃ当たる式に応募するのもいいが、ここはやはり、作品をもう一度精査して、「これ!」というもので応募するほうが確率は高いはず。以下のポイントをチェックして、選び出そう。
- 商品情報は凝縮できているか?
- わかりやすく、伝わりやすいコトバになっているか?
- 類似のものでないか?
- コトバの響きは心地いいか?
- 文字にしたとき美しいか?
- 覚えやすいコトバか?
- 口にしやすいコトバか?
- 対象のモノ・コトの「らしさ」はあるか?
キーワードが浮かばなければ……
どうしてもキーワードが浮かんでこないとき、あるいは、4つの法則に従っても良いコトバが浮かんでこないときは、以下のような方法も試してみよう。
- 漢字で… 例 「響」(ウイスキー)
- 語呂合わせで…… 例 「最洗ターン」(最先端/洗濯機)
- 擬音語・擬態語で…… 例 「きりり」(清涼飲料水)
- 数字や記号で…… 例 「セブンイレブン」(コンビニチェーン)
- わざと長い文章で…… 例 「じっくりコトコト煮込んだスープ」(インスタント食品)
- 当て字で…… 例 「二葉亭四迷」(くたばってしめえ/ペンネーム)
- 略字で…… 例 「docomo」(Do Communication Mobile)
- 会話調で…… 例 「お〜いお茶」(ペットボトル茶)
- アナグラムで…… 例 「DAKARA」(KARADAのアナグラム/健康飲料水)
「仮想」ネーミング公募 やってみる! ◎○△評価されてみる!
現場では、それぞれの作品がどのように批評されているのか? それを知るには実践が一番! ということで、本誌ネーミング講座「ナマエッグ」(2004年~2008年)で実に行われたお題、応募作品で誌上審査会を展開します。
お題:「できちゃった婚」に新しいネーミングをしてください。
エンジェルマミー:評価○
思い切ってロマンチックに攻めた案ですね。天使が降りてきて、赤ちゃんを告げる。あのマリア様の奇跡を彷彿とさせます。といったら褒めすぎでしょうか。深読みしすぎかも知れない。でも、エンジェルという言葉で、じゅうぶん赤ちゃんを想起させる。赤ちゃんが(おなかに)いる母のイメージが伝わります。
「今日の花嫁はエンジェルマミーよ」と宴の席で囁かれても、いい感じですよね。祝福のネーミングになっている。取り立てて造語しているわけでも、掛け言葉を操っているわけでもないのに、おなかの赤ちゃんをうまく伝えました。
産めディング:評価△
掛け言葉ですね。いわゆる洒落です。下手をすると駄ジャレになっちまう。「ウメ」と「ウエ」、似た音を使って二重のメッセージを打ち出しました。
「産めウエディング」とまず作って、2字引き算してこしらえた。
「私ウメディングするの」と聞いた人はウエディングの言い間違えかと思って、え? と注目する。すぐに、あ、そうか、おなかに赤ちゃんのいる結婚式か、と気付く。これなら実際使えそう。前向きだし肯定的です。あえていえば、ちょっと生なましいかなあ。「産」の字がリアルすぎるのかもしれない。カタカナにしたらどうだろう。「ウメディング」。一瞬ちょっと分かりにくいかもしれないけれど、洋風(?)でしょう。
おめでた婚:評価△
「できちゃった」というと、なんか後ろめたい、ちょっと無責任なイメージがあるけれど、「おめでた」と前向きに捉えて祝福しました。これなら招待状に「私たち、おめでた婚します。」と堂々と報告できる。
でも、おなかに赤ちゃんがいることが、ちゃんと伝わるだろうか。考えてみれば結婚自体「めでたい」ものですもんね。あたりまえじゃない? と思わせて、あとでわけを聞いて、なるほどと納得。これではネーミングとしてちょっと弱いんですね。「できちゃった婚」の文体(平仮名に漢字)と似せていることが、裏目に出ました。落ち着く奇数音の中でも、最も様になる6音。音声的には申し分なしですが。
エンジェリッジ:評価△
ANGEL×MARRIAGE=ANGERRIAGE。エンジェルとマリッジの掛け合わせです。だから、二つの意味がうまく重なって一つの言葉となった。要するに「天使が授けた結婚式」をうまく表現しました。ここでも「エンジェルマミー」と同じ問題が生じます。天使は赤ちゃんを授けるの? たしかにマリアに懐胎を告げに来たけれど。そこが欠点でもあります。「エンジェルマミー」は、母という概念はちゃんと「マミー」で入っていた。こちら「エンジェリッジ」は結婚の概念がちゃんと入っている反面、天使=子供のイメージがうすい。さて、どっちが実際に使い勝手がいいでしょうね?
キューピー婚:評価◎
「エンジェルマミー」と似た発想です。キューピーもエンジェルでしょう? 恋をさせる、赤ちゃんを授ける天使ですよね、いや、たしか恋だけだった気がするなあ、と不安になってくる。そこんところがちょい弱い。つまり「恋を授かった結婚」という意味しかないかもしれない。それだと、赤ちゃんの存在をアピールできていないということになりますね。しかし一方で、キューピー自体が赤ちゃんである、という認識が一般にある。キューピーマヨネーズのロゴマークの成果かもしれない。だから、「赤ちゃん婚」と言うイメージでも伝わってくる。エンジェルよりも映像がくっきり浮かぶ。そこが強みです。
こうのとり婚:評価◎
天使やキューピーだけが、恋や赤ちゃんを授けるお使いではない。もっとはっきりと「赤ちゃんを運んでくるモノ」がいるぞ、と気が付いた。この「気が付く」ということがネーミングに限らずアイデアには大事です。気付く、見つけることこそが「クリエイティブ」なんですね。
創造とは発見に他ならない。だって言葉自体はどこにでも無数にある。その中から一つこれだと思う言葉をピックアップすることが、ネーミングを作ることの基本なんですね。できちゃった婚⇒赤ちゃん⇒おなかの中⇒運ぶ、と連想分析して、コウノトリというキーワードを見つけた。ここんところが才能だ。思いつきでは到達できません。
マタイダル:評価△
これも掛け算。二つの言葉の掛け合わせです。
MATERNITY×BRIDAL。マタニティとブライダルの結婚です。私には「花嫁と母親を跨いでいる」ように読めたんですが、これは深読みしすぎでしょう。なんだか「マタ」がよく分からない。マタニティがすぐ浮かんでこないんですね。いっそ「マタニダル」としたらどうだろう。その方がマタニティがよく伝わる。妊娠がピンとくる。けれど今度はブライダルの方は見えにくい。結婚が伝わらない。でも、このネーミングは結婚の有り様が前提のテーマなのだから、むしろ妊娠が伝わるほうが大事だといえないでしょうか。この改変を勧めます。
こんな評価がありました。実際に売れた「ママリッジ」
実は、そのときの「ナマエッグ」の課題で最優秀賞を採ったのは、「ママリッジ」でした。ママとマリッジを掛け合わせた造語。「ママの結婚」です。
「グランプリはママリッジ。なんとシンプルでおしゃれで、そして愛がこもった呼び名なんでしょう。さて、披露宴のテーブルに耳をかたむけてみると……『彼と彼女、ママリッジなんだって。』という声が聞こえてくる。ほら、いい感じでしょ?」という評でした。
実は、このネーミングには後日談があるんです。このママリッジが発表された公募ガイドを読んだ人から、このネーミングを使いたい、買わせてほしいと、電話がかかってきました。
その人は結婚式のプロデュースをする会社の人でした。近年、できちゃった婚のカップルがとっても多いので、その人たち向けのウエディングの企画を売り出そうとしているんだけれど、いいネーミングがなくて困っていた。この「ママリッジ」をぜひ、というわけです。
作ったのは、熊本県の方でした。電話をしました。ケイタイでした。
「え! ママリッジが実際に使われるんですか!?」声のうしろにのどかな牛の声が聞こえました。
「いま畑仕事中なんですよ」と照れくさそうな緒方さんの声を、今でも覚えています。
ネーミング検索の言葉群
人名
日本だけでなく、海外の人物にも目を向けよう。歴史上の人物名や、創作物の登場人物などにも、意外に面白い響きのものがある。
例 「JAL悟空」
地名
街の名前、都道府県の名前、山、川、海の名前、街道名、地方の呼び名、旧地名など。同じ場所でも、時代をさかのぼった名前などに面白い響きがあることも。
例 「元気甲斐」
動物名
昆虫や魚の名前、動物の学術名や、創作物の中の架空の動物など、検索範囲が広い。
例 「ユニコーン」
料理用語
食品名はもちろんのこと、キッチン周りの道具名や、料理方法の外国名など、食品関係のネーミングにあたっては、必ず検索しておきたいカテゴリー。
例 「言葉のレシピ」
音楽用語
アンダンテ、ソプラノ、スタッカート、シャープ、シンフォニー……響きが心地よく、音楽以外の商品にも使いやすい言葉の多いカテゴリー。
例 「ソナチネ」
天文用語
惑星の名前でいえばマルスやサターン、衛星の名前でいえばイオなど、神秘的で深い奥行きを持つ言葉の多いカテゴリー。
例 「ギャラクシー」
IT用語
ドットコム、ブラウザ、ブログ、ツイートなど、普段のコミュニケーションの中に浸透が進んでいるこのカテゴリーは、組み合わせでネーミングに使いやすい。
例 「カブドットコム」
ファッション用語
ワードローブ、インナー、アウター、トップス、ボトムス……特にレディースファッションの世界で年々新しく生まれてくるカタカナの常套句は、ファッション以外の分野に幅広く使えそうな言葉が多い。
例 「ハイカラ」
※本記事は「公募ガイド2012年8月号」の記事を再掲載したものです。