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つくログ

村山　健壱
2025/09/14 01:10
#第47回どうぞ落選供養　今回数か月ぶりに添削をお願いし、「これは小説ではない」との評価をいただいた作品です。確かにストーリーがない。でも晒しておきます。反省しつつ、次を目指すために。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊「二十年で初めての」村山健壱　　　　　テーマ「逆転」＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊　ご多聞に漏れず、私はこれまで何度もダイエットに挑んできた。それは職場で行われる健康診断に端を発することがほとんどだった。そしてほとんどの人がそうであるように、一時的に若干の体重減少には成功した。しばらく維持できるときもあるのだが、そこで油断するのだろう。ほぼ毎回元の数字にまでリバウンドした。いや、それは正確な表現ではない。加齢による自然現象としての体重増加には抗えない。元の体重よりも多いところで高止まりしていた。　ビーエムアイでいうと三十を超えるくらいなので、肥満度は二。大したことはないとも言えるのがまた減量の邪魔をした。高血圧症、脂質代謝異常症、糖尿病という三つの病名がついても自覚症状は乏しい。しかも薬を飲むことである程度数値は下がる。妻は食事内容に気をつかってくれるのだが、彼女も忙しい上に子どもは育ち盛りだった。出来合いの揚げ物などが食卓に並んでしまう。また仕事をしていると飲酒を避けることは難しい。結局体重が減ることはなかったし、それが自分にとって最適な重さなのだと考えてもいた。　二年ほど前、友人に誘われてフルマラソンの大会に参加した。高校の頃から太っていた私は、一生に一度の挑戦というつもりだった。リタイアするであろうとは思っていたし、自分が場違いであることはスタート地点で周りを見回すまでもなく明らかだった。自分のペースで十数キロ進んだ頃には、周りのランナーはまばらになっていた。そんなランナーたちの体格はまちまちで中には自分よりも太っている人もいた。そのランナーにもやがて差をつけられ、私は二十一キロメートルの関門で回収されることになった。バスに乗せられゴールの競技場まで運ばれたのだが、四十二・一九五キロメートルを走り終えたランナーたちの疲労に満ちた表情の中にある笑みが眩しく思えた。脚を引き摺りながらコースに目をやると、十数キロ地点で私を抜いたあの彼がゆっくりと走っていく姿があった。よくやるなあ。その時はそう思っただけだったのだが、自宅で湯船につかりながら別の気持ちが湧き上がっていた。あの人が完走できるのなら、自分にもできるはずだ。なんとしても完走したい。そう思うようになった。　ダイエットではなく、速く、長く走ることが目標だった。週に二日、五キロメートルのランニングを続けた。体重は少し減り、ＢＭＩは二十六、七前後で落ち着くようになった。しかし一年後のフルマラソンでは成果が発揮されることはなかった。悔しかった。そして調べ、考えた。そこで出会ったのが、一キログラムの減量はフルマラソンのタイムを三分縮める、という言葉だった。私の場合、関門時間などからの試算では二十キログラム痩せれば確実に完走できることになる。その場合、ビーエムアイは二十。標準と言われるよりもさらに少ない体重だが、痩せすぎにはならない。納得の値だった。一年前の彼は例外的な筋力や持久力のある人物に違いない。彼と同じように、というのは諦めた。　それからは自ら食事量を調整するようになった。妻が作ってくれる料理のメニューについてはあまり変わりなかったが、量は制限できた。また走る距離を最低十キロメートルに延ばし、走らない日には筋トレとストレッチとを取り入れることにした。ちょうどその頃、運動をしている割に糖尿病の指標であるヘモグロビンエーワンシーが下がらないという理由で薬が追加された。それらの相乗効果であろうが、体重は二か月ほど五キログラム以上の減少となり、ヘモグロビンエーワンシーもぐっと低下したのだった。　ビーエムアイは二十五を下回るようになり、標準体重の範疇に入って来た。何か悪い病気なのかもと胃の辺りが時々ムカムカすることがあったので気に病んでいたが、その辺りで下げ止まり、かつ胃の調子がむしろ良くなっていったので杞憂だったようだ。フルマラソンの季節はまだ数か月先だが、ハーフマラソンのタイムは確実に短縮していた。目標の体重はまだ先だが、ダイエットのそもそもの目的を達成することが優先なので、そこに強くこだわる必要はないかもしれない。　ただ、こうなってくると私の外見も変化する。多くの人から「痩せた？」と聞かれるようになった。その先の目的があるとは言うものの、そう言われて嬉しくないはずはない。もう少し食べる量を減らし、走る距離を延ばせばきっと、更に体重は減るであろう。そしてそれを達成できる自信が今の私にはある。　そんなある日、妻が不満げな表情でつぶやいた。「また体重増えた……」　おそらく更年期もあって体重が増えやすいのだとは思うが、確かに私から見ても彼女が一回り大きくなった印象はあった。彼女も日々の食事量は多くないが、やはり間食は多いように思っていた。しかし妻とはいえ、直接的に数値を聞くのは避けるよう心掛けていた。そしてその日の私も、それはしなかった。でも、私はどうかしていたようだ。自分に驕りがあったのかもしれない。「もしかして、俺の方が軽くなったか？」　不服そうな表情で彼女は数字を口にした。その通りだった。結婚してちょうど二十年経つが、初めての逆転だった。【了】
メリッサ
2025/09/13 21:16
藤原正彦エッセイコンクール応募しました！！下手な鉄砲数打ちゃあじゃないけれど、とにかく書いて書いて書きまくるというのを今年の目標にするぞ！！って決めました。書いているうちに見てくるものがあると信じたいです
karai
2025/09/13 20:33
来月の話をすれば、鬼が笑う？小どぞ〈寄生〉　書けました。自分ではとても気に入っております。宣言しておきます。もし採用されなかっても、落選供養で読んでいただきます。でも、これはきっと採用されると思います。(笑) ＊なんでわざわざ自分でハードル上げるかな～なんて馬鹿なんでしょう。（＾＾）
かずんど
2025/09/13 16:28
「よし！　今週の土日こそ、『小説でもどうぞ〈まちがい〉』や『坊っちゃん文学賞』を進めるぞ！　今週こそだ！」と、思って、一切なにもやらずにダラっと過ごしたのが、先週のことでした。今週も「今週こそ」と思っていたのですが、今日は家の片付けや掃除に時間をかけてしまい、つくログやったらもう夕方になってしまいました。そして今日も、仕事疲れで体がお休みモードで眠いです。たぶん、今日も創作ゼロだろうと思います。よし！　明日の日曜と、月曜の祝日こそ頑張るぞ！っと。（今月も入選作にしかコメントできない不甲斐なさをお許し下さい。）
かずんど
2025/09/13 16:27
獏太郎さん『小説でもどうぞ〈逆転〉』選外佳作、一緒に入れて嬉しいです。遅くなりましたが感想を。生きる上での前向きな考え方や優しさが表現されていて、獏太郎さんらしい作品ですね。生きるのに辛いときには、こういうふうに考えればいいというのが、物語を通じて読み手の心に届きます。実際の体験談を読んだかのような説得力がありました。〈逆転〉というテーマをどう盛り込んだかということよりも、人生観のようなものが強く届いたというのが、選ばれた理由なのではないかな、なんて思いました。

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