作るプロセスとしては今、その扉は閉じています。 強引に開けようとすると、さらに深い闇の底へ落ちてしまうので、そーっと、そーっと近づきます。 そしてワッ!と驚かしてしまうと、開くかどうかわかりません。 だって、驚かせたことなんて一度もないんですから。 ましてやその扉、まるで生き物のようにうごめいて、近づこうとすればバク!と頭から食べられてしまいます。獰猛なハンターです。 毛むくじゃらの、目も鼻も口もどこにあるのか分からない化け物が、扉と同化してそこにいるんです。 でも、その化け物扉が、いつのまにかスーッといなくなっている時もあります。それはいつか、って? 化け物扉よりもずっともっと恐い重しを手に入れた時です。扉が自然と開き、私を中へ入れてくれます。 扉の中は何かの目玉がうごめいていて、ぎょろぎょろと何かを探している様子。しかし心配はいりません。私には、この恐ろしいほどの重しがありますから。 アイデアが、ずっと湧き出てくる温泉のようにいつも潤沢なわけではありません。 掛け流し温泉のように凝りをほぐしてくれるわけもありません。 私が、家を出て旅をし始めた頃。 がらがらの列車の座席に、ふと、メモ帳が置いてあるんです。ページをめくっていくと、白紙だったメモ帳に、インクの染みが浮かんできます。これは。と思うものが、どんどんどんどん、泉のように溢れ出てくるのです。 誰もいないのにみかんの木から、みかんが落ちた時――一つ目小僧がみかんを取ろうとして、私が振り向いたものだからびっくりしてみかんを落としてしまったんだ、とか。 電線の上のカラスが、カァと鳴けば、山の方からやまびこのようにほかのカラスの鳴き声が聞こえた時――発声練習でもしているのだろうか、とか。そのカラス、朝は寝起きなのか声もガラガラだけど、夕方になるといい声で鳴くんです。 ワンと鳴くノラネコがいたりすると――おい、チビ。なんて声をかけたくなるものですね。 そのように、見たものからいろんな想像をして、物語として繋げていくのができるようになると、あれよあれよとどんどんどんどんアイデアが芋づる式に現れて、あっという間に私を物語の中へと連れて行ってくれます。
Kay