阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「奇妙な待ち合わせ」ハヤサカ
気が付いたらバス停にいた。ここはどこだろうか。バス停の文字がかすれていて読むことができない。あたりは一面田んぼでこのバス停と舗装されていない一本の農道があるだけだった。深い霧がかかっていて農道の先が見えない、そして肌寒い。私はなぜこんなところにいるここはどこだ?考えを巡らせたが答えは出なかった。ただ「誰か」とここで待ち合わせをしていたことは覚えていた。誰と待ち合わせをしていたんだっけ。バス停の小屋にストーブがあった。それにあたりながら「誰か」を待つことにした。
しばらく経つと誰かが来た。私が待っている「誰か」だろうか。笠をかぶっていて顔はよく見えないが服装は僧侶だった。私がいた小屋に入ってきて笠を外し私の隣に座ってきた。
「どうも」
僧侶があいさつをしてきた
「ど、どうも」
短い挨拶を交わした。この人は誰だろうか。旅の僧侶なのかな?いったいどこから来たんだろうか。そんなことを考えていると
「今日は冷えますなあ」
僧侶が話しかけてきた。
「そうですね」
「霧がとても濃いですからねぇ、少しだけ暖をとれる場所がないかと思って歩いていたらこのバス停を見つけましてね。おたくはどうしたんですか?バスを待っているんですか?」
「いえ、気が付いたらここにいたんです。ここが何処かわからなくて。ただここで誰かと待ち合わせをしていたことは覚えているんですよね」
「ほう、こんな霧の深く肌寒い場所で待ち合わせですか・・・」
「ええ、そうですね」
しばらくこんな会話が続いた。
「さて、十分に暖を取りましたし私はこれで失礼させていただきますよ」
僧侶がゆっくりと腰を上げた。
「あれ、もう行ってしまうのですか」
「ええ、長くいすぎたら出たくなくなってしまいますからね。全く、寒いのは好みませんなぁ」
「そうですか、お元気で」
僧侶が出ていく間際立ち止まって行った。
「そうそう、次のバスに乗ってあなたも行ってあげなさい。待っているのはあなたではなく相手のほうだと思いますよ」
「え?あの、どういう・・」
問いかける間もなく僧侶は行ってしまった。数分もしないうちにバスが来た。外に出てバスを見ると先頭にはこう書いてあった。
「現実行き」
現実行き?なんだそれ。そう思った瞬間バスのライトで視界がいっぱいになった。
目が覚めたら病院のベッドにいた。話を聞くとデートのために彼女と待ち合わせをしていて待ち合わせ場所へ向かっている途中に交通事故にあって意識不明だったそうだ。あの夢の場所は何だったんだろうか。俗に言う三途の川のようなものだったのだろうか。あのまま僧侶の話を聞き流してバス停の中でずっと待っていたらどうなっていたのだろうか。ずっと意識不明のままだったのだろうか。考えるとゾッとした。
あの僧侶は誰だったんだろう。死神か、それとも天使か。今となってはわからない。
(了)