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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「鬼退治株式会社」がみの

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第71回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「鬼退治株式会社」がみの

 桃太郎は港で待っていた。

 待ち合わせの時間はお昼ちょうどだったが、犬猿雉はまだ現れなかった。

 犬猿雉ともに、鬼ヶ島まで同行するに当たっては親兄弟の了承を得なければならないと言い、桃太郎もそれはもっともなことだと考え、彼らをいったん家に帰したのだ。

 お昼を過ぎてしばらくしてから、犬がやってきた。犬はうかない顔をしていた。

「桃太郎さん、お待たせしました。実は親から反対されました」

「どうして?」

「きびだんご一個程度で鬼相手に命をかけるのは割が合わないだろうと言うのです」

「鬼を退治すれば、鬼どもの財宝が手に入るんだぞ」

「それも話しましたが、その鬼の財宝の所有権は誰にあるのかと言われたのです。人間から奪った財宝ならば、元の持ち主が所有権を主張するかもしれない。そうしたら、くたびれもうけではないかと」

「うーん」

 桃太郎は腕組みして、うなった。

 そこへ、猿と雉がやってきた。

 猿と雉は犬の話を聞いてうなずいた。猿と雉も親から同じようなことを言われたそうだ。

「負傷したり戦死した場合に労災がおりるのかとも聞かれました」

「労災?」

 桃太郎は目を剥いた。

「それに、桃太郎さんがどれだけ強くても、武器も無しで鬼相手は厳しいだろうとも言われました」

「武器か」

 桃太郎は考え込んだ。

「ちょっと考えが甘かったか」

 桃太郎はそう言ってから、犬猿雉を見回した。

「悪いが一ヶ月だけ時間をくれるか。村に戻って会社を立ち上げようと思う。給与とか保険も会社で何とかしよう。武器も調達する。財宝の所有権についても専門家の意見を聞いてくる」

 犬猿雉は目を輝かせた。自分たちが会社員になれると知って喜んだのだ。

「一ヶ月後のお昼に、またこの港で待ち合わせよう」

 そう言って、桃太郎は村に帰って行った。

 桃太郎は『鬼退治株式会社』を設立し、出資者を募った。おじいさんおばあさんをはじめ、多くの村人たちがなけなしのお金を出してくれたが、それだけではとても足りない。

 村の庄屋、そして庄屋から紹介された商人たちにも会社説明に行って出資を頼んだ。

 商人たちは犬の親が言ったように、財宝の所有権を心配した。

 そこで、桃太郎は鬼に財宝を奪われたという人たちを訪ね歩き、その価値を確認した。そして、取り返した際の報酬について取り決めた。所有者が確定できない財宝もあるだろうと、法律の専門家に相談に行き、時効やら何やらの説明を受けた。

 桃太郎は鬼が島の財宝の価値を集計し、会社の利益を推定した。

 それをもとに商人たちを再訪すると、商人たちは配当率を確認し喜んで出資してくれた。

 桃太郎は武器を集めた。弓、槍、刀、銃、大砲など。鬼ヶ島に渡る為の船も用意した。船は武器を運んだり財宝を持ちかえる為にも自前のものが必要と判断したのだ。

 ここで桃太郎は考え込んだ。

 犬猿雉がこれらの武器や船を扱えるのか?

 桃太郎は武器を扱える武士たちを雇うことにした。船を操る船員も雇った。

 経理の為の事務員も必要だった。

 こうして『鬼退治株式会社』は、会社の体をなした。ちゃんと保険にも入った。

 一ヶ月後、犬猿雉は港に集まった。

 約束はお昼だったが、いつまで待っても桃太郎が現れなかった。

「やっぱり会社作るなんて、無理だったんだよ」

 犬が残念そうに言った。

「そうだな」

 猿が同意した時、雉が沖を見て叫んだ。

「あれを見ろよ」

 犬と猿が目をやった先には、大きな帆船が鬼が島に向かって進んでいるところだった。

「くそー、誰かに先を越されてしまったのか」

 船には桃太郎と部下の武士達が武器を携えて乗っていた。

「よくよく考えてみれば、犬猿雉連れて鬼退治なんてできるわけがない。あいつらの為にも置いていく方がいいだろう」

 桃太郎はそう思いながら、双眼鏡で港の方を見つめた。待ちぼうけくらった犬猿雉が目に入る。桃太郎はちょっとだけ胸が痛んだが、心から追い払い、鬼が島に向き直った。

(了)