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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「お花リモコン」宮本ことん

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第69回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「お花リモコン」宮本ことん

 リモコンショップに入ると、なじみの店主が笑顔で出てきた。

「いらっしゃい、イサムさん。今日もいいのが入っているよ」

 狭い店内を見渡すと、テレビやエアコンなどの一般的なリモコンから、ごみ箱リモコン、おみくじリモコン、カレンダーリモコンなどの、わくわくするような珍しいリモコンが数多く並んでいた。

「最新のリモコンは何だい?」

 イサムが聞くと、店主はレジの後ろに置いてある段ボールをごそごそし始めた。

「えーっと。最新ゴミ箱は買ったんだよな」

「ああ。粉砕機能が付いているやつだろ。便利だよ」

 店主は顔をあげ、あった、と大声を出した。

「はい。お花リモコン」

 店主は、手のひらほどのリモコンと、両手で抱える程の大きさの鉢を渡してきた。

「お花リモコンだっけ? 花が見あたらないんだが」

 イサムが不満げな声を出すと、店主は通販のように流暢に話し出した。

「このお花リモコンは、一粒の種で、十種類の花を咲かせることができる。その日の気分でボダンを押せば、ヒマワリ、コスモス、バラなど、好きな花を咲かせられる。人気が出る前に買わないと、在庫が無くなっちまうよ」

「花か……。最近妻に何にもしてやれていないからな。これを買って、たまにはきれいな花でも見せてやろう」

 イサムがお金を払うと、店主は大きな真ん丸の虹色の種を、一粒差し出してきた。

「これを鉢に埋めると、五分もすれば花を咲かせられるようになる。あとは、説明書をよく読むんだよ」

 家に帰ると、さっそく鉢に庭の土を詰め込み、自分の部屋に持って行った。窓際の机の上に置き、種を植える。

 店主の言ったとおり、五分もすると三十センチほどの高さの茎が生えてきた。

 リモコンを見ると、大きなボタンが十個ついており、それぞれに花の絵が描いてあった。

「何だ。これなら、説明書はいらないな」

 イサムは机の角に説明書を置くと、ボタンを押してみた。

 ポンッという軽快な音と共に、ヒマワリの花が咲いた。

「これは面白い」

 イサムは何度もボタンを押し、花を変えた。

 飽きてきたころ、思いついたことがあった。二つのボタンを同時に押すと、どうなるのだろう。イサムは適当にボタンを二つ、同時に押した。

 ポンポンッと音がして枝分かれし、朝顔とバラの花が咲いた。

「なんと、これは面白い」

 イサムはそれから何度も押しては枝分かれさせた。ポンポン、ポンポン、ポンポンッ。

 コスモスやらユリやらパンジーやら、いろいろな花がランダムに混じった巨大な花束のようになった時、イサムはもっと愉快なことを思いついた。

「全部同時にボタンを押してはどうだろう」

 イサムは、ドキドキしながら指をボタンにあて、同時に押した。

 ……、ボンッ。花束が小刻みに揺れた後、とんでもなく大きな音がしたと思うと、鉢には巨大な植物がゆらゆらと揺れていた。

「驚いた。これは面白い」

 イサムが喜んでいると、ワニのように大きな口を持つ食虫植物は、ゆっくり口を開けた。

「おや、お腹がすいたのかな。待っていろよ、今魚でも持ってく……」

 バクン。食虫植物は目にも止まらず速さで動き、イサムのことを飲み込んだ。

 食虫植物は、イサムを消化しようとグネグネ動く。

 食虫植物が動いたとき、風に煽られて説明書が床に落ちた。

 お花リモコン

 注意:同時にボタンを押さないでください。花が咲くのに必要な養分が、鉢の中の土だけでは足りなくなります。

 ノックの音がして、ドアが開いた。

「さっき大きな音がしたけど、大丈夫? キャッ」

 妻が食虫植物を見て、悲鳴を上げた。

「何これ。気持ち悪い!」

 妻はポケットから最新のゴミ箱リモコンを取り出すと、食虫植物に向けて、『捨てる』ボタンを押した。すると、廊下から何かを砕くような音をさせながら、大きなゴミ箱が、大きな口を開けて、ゆっくりと食虫植物の元へ向かって行った。

(了)