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ボクと家族と……

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ボクと家族と……

大久保綾

ボクたちは、五人家族。

パパとママ、サトル兄ちゃん、ミホ姉ちゃん、そしてボク。

パパは朝早く会社に行って、夜遅く帰ってくる。

「ふー、また一週間が始まった」

って水曜日になっても言うのが口ぐせ。一週間って水曜日からじゃないと思うけど?

ママも朝、パパと一緒に会社に行くけど、パパより早く家に帰る。夕方、ボクたちが帰ってくると、ママは大きな声で「おっかえり~」と玄関に走ってくる。玄関マットをふんずけて「おっとっと」って転びそうになる。せまい家、そんなに急いでどうするの?

サトル兄ちゃんは、小学六年生。本が大好きで、メガネをかけてるから、あだ名は博士くん。どうしてメガネをかけてる人って「メガネくん」か「博士くん」って呼ばれちゃうのかな?

四年生のミホ姉ちゃんは、歩きながら踊って、しゃべりながら歌う。とにかくいつも元気いっぱい。あだ名は「ミホダンス」。名前より長いあだ名って?

ボクは家族の中で一番小さい。あだ名は「チビ助」。まあ、別に文句はないけどね。

夜は、兄妹で二階の部屋で並んでお布団に入る。ジーッと耳をすましていると、ジャーと流れる水音がキュッと止まって、階段をトントントンと上がってくる音がする。スッとふすまが開いて、サッとママが入ってくる。

「さぁて、さて。今日のお話は……」

ママは寝転がって、すぐに話し始める。赤ずきんや白雪姫、浦島太郎や桃太郎。ときどき、ママは疲れて、うつらうつらするから、途中でお話がごちゃごちゃになっちゃう。続きが聞きたくてママをつっついてみる。

「……ああ、これでみんな幸せになりました、めでたし、めでたし」

お話が途中で終わっちゃうけど、ママのお話は大好き。

でも、その日の夜は、なんだか様子が違った。ボクは早く寝ちゃったから、後から聞いたんだけどね。

サトル兄ちゃんとミホ姉ちゃんは、お布団の中でいつも通りママを待ってた。ジャージャー、ジャージャー水音がして、ドン、ドン、ドンと階段を上がってくる音がした。ガタガタガタとふすまが開いて、パパが大きな声で言った。

「明日は朝から出かけるから、早く寝るぞ」

パパはゴロンと横になってグウグウいびきをかき始めた。突然、パパのいびきが聞こえなくなって、部屋中にしゃがれ声が響いた。

「ウォオゥーッ、やっとぉ、このときがきたなぁ」

茶色くて毛はボッサボサ、ギョロっと赤い目のオオカミがヒョっと立っていた。サトル兄ちゃんとミホ姉ちゃんは、パパを起こそうとぶるんぶるん、ゆさぶった。

「あぁ、そんなことしてもムダ、ムダ。起きたりしないよ、大人ってやつは。いっつも疲れてるもんだからなぁ」

オオカミはズイーっと二人に近づいてきた。

「なんでオレ様がここに来たと思う? オレ様は、怒ってるんだ。お前たちのママになぁ」

オオカミの大きなしっぽがフサっと二人の顔にかかった。

「毎晩、毎晩、いいかんげんな物語ばっかりしてなぁ。あげくの果てに『めでたし、めでたし』って勝手におめでたくしてなぁ。終わりよければ、すべてよし、ってわけじゃぁないんだよ、物語っていうものは。そういうもんじゃぁないんだよ」

オオカミは、真っ赤な舌をベロンと出した。

「お前たちには、しっかりと教えてやらなくちゃあなぁ、物語がどういうものか。お前たちのママが話さなかった本当の物語をなぁ」

オオカミのよだれがベトーっと二人の顔にたれてきた。

「ジリーン、ジリーン」

パパの携帯が大きく鳴った。オオカミは、かげろうのようにフイっと消えた。

パパが慌てて携帯に出る。しばらくすると、パパのほっぺがジワーっと上がって、ニッカリ笑顔になった。隅っこでブルブルふるえてたサトル兄ちゃんとミホ姉ちゃんも、ホッと笑顔になった。

すぐにみんなは、産婦人科の病院にやってきた。ママとボクはそこにいたんだ。

ボクはうっすら目を開ける。

「よろしくな、チビ助。お兄ちゃんのサトルだよ」

「初めまして。私がお姉ちゃんのミホだよ」

わぁ、初めて会うけど、二人って、何だか白っぽくって、ボーっとしてて丸っぽい。

でもサトル兄ちゃん、ミホ姉ちゃん、二人のことは前からよーく知ってたよ。

ボクのほうこそ、これからもどうぞ、ヨロシクネ。