文章表現トレーニングジム 佳作「進化と回転」水曜
第22回 文章表現トレーニングジム 佳作「進化と回転」水曜
久しぶりに家族で回転寿司を食べに行った。以前はよく通っていた店に足を踏み入れた瞬間、私は唖然とした。
なんと。
回っていない。
寿司が一切回っていないのだっ。
どういうことかと放心しながら席につくと、でかでかとしたタッチパネルが備え付けられている。試しに触ってみると、画面がどんどん変わっていく。マグロの画像になったところで、注文ボタンを押してみた。
「ご注文を承りました」
無機質に告げる機械音。
待つことしばし。
音楽に合わせてレーンが動きだし、寿司が載った皿が流れてくる。赤々としたマグロ寿司は、私の目の前でぴたりと止まった。
寿司を手に取り、ぱくりと口の中へ。呑み込んだ赤身は何だか冷たく感じて、お茶で口直しする。
違う。
何かが違う。
これは最早回転寿司ではない。
なるほど、完全注文制の機械制御にすれば無駄を省くことができるだろう。客も欲しいものが流れてくるのを待ち構える必要がない。店側にも客側にもメリットがある。事実、一緒に来た家族一同はこのシステムに好意的だった。
だが。
だがである。
ぐるぐると回っているのが回転寿司ではないのか。流れてくる色とりどりの寿司から何を選ぶか悩み、わくわくしながら選択して自ら皿をとるのが醍醐味ではないのか。回転寿司が進化すると、回転する必要すらないということなのか。だとすると、普通の寿司屋と何が違うのか。
そんなことを悶々と考えながら、私はこの日五十皿以上の寿司を完食していた。