文章表現トレーニングジム 佳作「獣医師」上野達
第21回 文章表現トレーニングジム 佳作「獣医師」上野達
今から十年余り前になるから、平成十年代の末頃、私は所属する酪農業協同組合の、組合長をしていた。
組合職員の獣医師が依願退職し、代りの獣医師を探さねばならなくなった。
若い大動物獣医師は少なく、探すのが難しいと云われていた。
年初めに、北海道にある母校の、東京事務所に問い合せた。結果驚くことに、今年の卆業生で、大動物の臨床獣医師になった者は一人もおらず、小動物の動物病院、製薬会社、一番多いのは公務員だという答え、到底こんな小さな酪農組合の獣医師になる者はいない、ということを思い知らされた。
なる程と思わされることが、間もなく訪れた。
私が支部長をつとめていた大学同窓会、県支部総会が開かれた際、配付された同窓生の名簿の獣医師を目で追ってみて、納得した。殆どが公務員である、家畜保健所は分るが、人間の保健衛生所勤務も多いいのである、平成になってからの卆業生が殆どだ。
昔、私が現役の牛飼いだった頃、お世話になっていた昭和一桁生れの獣医師が、「吾には農村大臣から免許をもらっている、農家の産業動物の診療が第一だ」と会話の中で云ったのを覚えている。保健衛生所、愛玩動物は確か、厚労省の管轄である。
息子の経営する牧場の牛は、七十才前后の酪農協を退職した獣医に診察してもらっている。