文章表現トレーニングジム 佳作「先生の言葉」安部直
第21回 文章表現トレーニングジム 佳作「先生の言葉」安部直
「何を見てるんだ。授業がイヤなら、廊下に立っていろ」
教室の窓から工程を見ているとき、担任のS先生に見つかってしまった。言われた通り廊下に出て、立っていた。
昭和二十年代のことである。
授業が終わると、先生は教室から出てきて「昼飯を食って、午後の授業はしっかり勉強しろ」と、拳で頭をゴツンと叩かれた。
その当時、昼は先生も生徒と一緒に教室で弁当を食べていた。給食がない時代である。幼なじみのT君は、ときどき弁当を持ってこなかった。そのとき、T君は昼食の時間になると校庭に出ていく。
ある日、S先生は人一倍大きな弁当箱に、入りきらないほどの、おにぎりを持ってきた。そして、T君に「遠慮しないで、いっぱい食っていいぞ」と言った。T君は「えっ、ほんとですか。いただきまーす」と言いながら、両手にもって食べていた。「明日から心配することないぞ」先生は、T君に言った。
これとはほど遠い悲しい言葉を耳にした。
先日の新聞記事のことだ。
「注意するのが面倒くさいので、見て見ぬふりをしました」
ある小学生が同級生のイジメによって長く不登校になっていた。その担任だった先生の言葉だ。
終戦生まれの昭和っ子が、平成の変貌を意識するのは、こういうときなんだなあ。
「それが、どうした!」と言われればそれまでだが。