文章表現トレーニングジム 佳作「おふくろの味」ひよこちゃん
第19回 文章表現トレーニングジム 佳作「おふくろの味」ひよこちゃん
母は料理の得意な人だった。キャリアウーマンとしてバリバリ働きながらも、料理の手を抜いたことはない。冷凍食品も使わず、家族七人の食事の支度をしていたのだからすごいことだと思う。
祖父は猫舌だったので炊きたてのご飯はダメで、わざわざ祖父のために冷やご飯を用意しなくてはならなかった。父は乳製品がダメだったので、クリームシチューはなかなか作ってもらえなかった。それでも私達子供のお弁当にはクリームコロッケやグラタンを入れてくれたこともあった。
中でも美味しかったのは和食である。煮物の味は絶品で、私は子供のくせに味の好みが渋いわねと笑われた。お盆の時に作られる椎茸や高野豆腐の煮物も、お正月の時に作られるお雑煮も、思い出深い味だ。しかし特に恋しくなるのは、なんでもない日に食べていた料理だ。あの茎わかめの煮物は母にしか作れない味だと思っている。こういった料理は外食してもなかなかお目にかかれず、自分で再現するしかない。私は何度も何度も味の再現を試みた。しかし母の味を再現することは出来なかった。
私は意を決して母に作り方を聞いた。答えは「味の素」であった。家庭の味とは得てしてそういうものだ。