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阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「いたずら」中野航太郎

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第42回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「いたずら」中野航太郎

「おはぎさんって知ってる?」

「なんだよそいつ」

まだ暑さが残るなか、コウタは兄と学校からの帰り道を歩いていた。

「そいつはな、彼岸っていう時の夜に人の家に入り込む妖怪でね、おはぎを勝手に食べていくんだ」

「へー、そんな妖怪もいるんだね」

「でもな、とてもおはぎがおいしかったらものすごいお礼をしてくれるんだって」

「ものすごいってなにかな?ゲームでもくれるのかな」

「だからさ、机におはぎをおいてどっちがいいものもらえるか勝負しようぜ」

「よし、やろう!」

二人はダッシュで坂道を駆けのぼった。

二人共家に着いた後おはぎを獲得するためすぐに出発した。兄はとっておきのおはぎがあるところを知っていると言いどこか遠くに行ってしまった。一方コウタはまだ低学年、おはぎをどこで手に入れればよいのかわからず、仕方なく近くのコンビニのおはぎを買った。コウタが家に戻ってから一時間ほど経過し、兄が戻ってきた。

「駅前にある和菓子屋さんの出来立てのおはぎだぜ」

そういって兄は得意げにビニールからおはぎを取り出した。前に父がお土産で買ってきたところのおはぎだ。

「すごいや!ぜったいおはぎさんも気に入るよ」

コウタは何がもらえるのかわくわくして勝負のことなどすでに頭になかった。その後二人はおはぎを自分の机の上に置いて夕食に向かった。

次の日の朝、コウタは兄の大きな声で目覚めた。

「おい見ろよ!おはぎさんは俺のおはぎをとても気に入ったみたいだぜ」

コウタは急いで兄の部屋へ向かった。見てみると机の上には新品のゲームソフトが置かれていた。

「わあ、ほしかったゲームだ!ほんとにおはぎさんはいるんだ」

コウタはすっかり信じ切ってしまい、自分の机へ向かってみる。

「これは大変だぞ」

兄は目を大きく開きおはぎが置いてあったところを指さす。そこにはおはぎではなく、泥団子が置かれていた。

「おはぎさんはおはぎが気に入らないと代わりに泥団子を置いていくんだ。そしてもらったやつには不幸なことが起こるらしいぞ」

「ええ、そんな」

コウタの顔に不安が広がっていく。

「この泥団子をもって神社に行ってお参りをすれば大丈夫だ。さあ、俺は今日の日直だから先に学校に行ってるぞ」

登校する時間になったが今朝のことで頭がいっぱいだったコウタは今にも不幸が起こりそうに思い自分の部屋に戻り泥団子をもって家を飛び出した。全速力で学校と真逆の道を走っているとすぐ目的の神社についた。時刻はとっくに登校時間を過ぎていた。ゼイゼイ息を切らしながら境内に入っていく。

「僕、こんな時間に何やってるの?学校はどうしたの?」

振り向くと神主が不思議そうな表情で立っていた。

その日の夜コウタと兄は母親にこっぴどく叱られた。おはぎさんの話は兄ので作った話で、学校で彼岸について勉強し、弟にその知識を披露してみたかっただけだった。あのゲームソフトはおはぎのついでに自腹で購入したものだった。兄はまさか朝に神社に行くとは思っておらず学校でネタ晴らしをしてやろうと考えていた。結局、コウタが神社にいた時、家に学校からまだ来ていないという電話が来て発覚した。コウタは怒られたことよりもおはぎさんが作り話だったことのほうがショックだった。

二人が叱られ沈黙している中、父親が帰宅してきた。

「お土産買ってきたぞ」

タイミングの悪いことにおはぎだった。二人はそれを見るなり会話も交わさず自分の部屋に逃げていった。父は不思議そうに首を傾げ仕方なく冷蔵庫に入れることにした。

翌日の朝、コウタは下の階に降りるとどうやら兄が母に問い詰められている。

「あんたがどっかやったんでしょ」

「僕しらないよ!本当だよ」

冷蔵庫にあったおはぎがすべて消え。父も母も冷蔵庫に入れたっきり触っておらず、昨日の犯人の兄に疑いがかけられたのだ。結局そのおはぎは見つからなかった。

この奇妙な出来事以来兄はおはぎが嫌いになった。一方コウタは彼岸の時期には毎年おはぎを机の上に置いている。まだ見ぬおはぎさんに会うために。