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文章表現トレーニングジム 佳作「伊曾保物語」並松昌子

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作文・エッセイ
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文章表現ジム
第18回 文章表現トレーニングジム 佳作「伊曾保物語」並松昌子

新聞のコラムに紹介された「伊曾保物語」によれば、イソップは「人に優れて見苦しく、汚き人」だが「才覚また並ぶ人なし」とある。

ヨーロッパでこれほど醜い男はいないほどに醜く、しかも吃音で言葉が聞き取れなかった。紀元前六百年頃のギリシャで奴隷として転売されていくが、人並外れた才覚で主人の窮地を何度も救う。その上逆境を糧に、後世に語り継がれる多くの寓話を残した。

因みに「天は二物を与えず」と言うが、一人に二つ以上優れた物を与えたり、酷いハンディを与えたりと、きわめて不公平だ。それでもイソップのように、ハンディに屈せず成功し輝く人がいる。仕事で知り合った私の友人もその一人。不屈の精神力を持ち、肢体不自由者ながら大型車販売会社の社長。手足も首も異様に曲がり、ダンプを操る姿に息を呑む。社員は皆肢体不自由者。懸命に働く彼らを見守る目は暖かい。四五才で成功を勝ち取った彼のエネルギーと知力に、業界や周囲の人々は畏敬の念を抱く。

「ずっとこの体で生きてきたからこれが普通、人に出来て自分に出来ないのは無能だからで体のせいではない」自身の歩いた道のりを語らず、不公平だとか、ハンディがあるなど思ってもいない彼。十才も年下なのに、いつからか私は彼を師匠と呼んでいた。逆境をあるがままに生きたイソップの魂が、悠久の時を経て甦えり師匠の心に生き続けている。