文章表現トレーニングジム 佳作「【仲間】をなんと読む」落合雄志
第17回 文章表現トレーニングジム 佳作「【仲間】をなんと読む」落合雄志
「にいちゃんこれ知っとった?」
僕はその時、自分の部屋で勉強をしていたけど、ドタバタと弟が部屋に入って来て、その勢いに手を止めた。晩御飯を食べる前だったことを何故かはっきり覚えている。
「どうしたん?」
僕より三つ下の弟とは仲良くもなく、悪くもなく、新しく買ってきたゲームをどっちが先にプレイするかで揉める程度の普通の兄弟だった。
「この漢字ってめっちゃ読み方たくさんあるんじゃけど、にいちゃん何個わかる?」
と、得意気に見せてきた漢字は【仲間】だった。
漢字で盛り上がるぐらいだから僕も弟も小学生の時だっただろうか。
「え、ナカマしかないじゃろ。どういうこと?」
「僕もそう思ったんじゃけど、これ見てや。僕、こういう読み方あるってほんと知らんかった!」
といって、弟が差し出してきたのは漫画「ONE PIECE」の単行本だった。
「仲間って書いて、ナミって読むんじゃって。ほらここに書いてあるし、ゾロとも読めるんじゃって!」
弟が何を言っているのか一瞬で分かった、と同時に噴き出してしまった。
「うわ、ほんまじゃ、そうやって読むの知らんかったわ。よぉ見つけたな。そしたら辞書に書いてあるのも間違っとるなぁ」
「じゃろじゃろ?」
弟は満足気にそう言って部屋を出ていった。
その後、いつ弟が間違いに気が付いたのかは知らないけれど、【仲間】と書いて、ナミと読ませるのは、今、改めて考えても素敵な読み方だと感じた。