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文章表現トレーニングジム 佳作「不良の才能」にこ

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作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第17回 文章表現トレーニングジム 佳作「不良の才能」にこ

おっとりしていて育ちがよさそう、とよく誤解を受ける。お世辞なのかもしれないが、言われるたびに複雑な気持ちになる。

おっとりではなく、反射神経がニブイのだ。わりと複雑な家庭の生まれである。そう話をすると、今度は「グレなくて偉い」と言われる。それも誤解である。グレようとは思った。ただ、どんなことにも向き不向きはあり、私には才能が無かったのだ。

まず、引っ込み思案なので不良の友達を作ることが出来なかった。そうなると先達がいないのでグレ方もよくわからない。思いつくままに髪を脱色しようと試みたが、アトピー体質で強い薬剤が使えないために落ち着いたこげ茶色になってしまい、生活指導の先生に「似合ってるぞ」と褒められる始末。高校ではタバコに挑戦してみたものの、一口吸ってむせかえり、そのまま喉を傷めて高熱を出し、数日間寝込んでしまった。

大体、社会の規範から外れて人と違うことをするからには、精神力、体力共に優れていなければならないのだ。どちらも人並み以下の私のような者が、不良になりたいというのは大それた望みだった。家出をしてみた事もあるが、ゲームセンターに行けば大音量とチカチカする光で具合が悪くなり、ファーストフードでは油に当たりお腹を壊し、近所の畑の間をうろうろしていたら立ち小便をしていたおっさんにそのままの恰好で追い回されて、ヘトヘトに疲れて家に帰った。ここまで軟弱ならば、社会の枠の中で健全に暮らしていく方が向いていると言える。

ここに至って私は自分の資質の無さを自覚し、道を外れることを泣く泣くあきらめた。こうなれば他人の誤解に乗じておとなしく生きていくしかないと思い、茶道部に入部して礼儀を学び、勉強をして奨学金で大学へ行った。やけっぱちの心境である。

しかし、私の妹は見事にグレた。金髪でタバコを吸っていた彼女の才能を私は少しうらやんでいる。