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文章表現トレーニングジム 佳作「義父が来た夜」内川泰子

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作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第15回 文章表現トレーニングジム 佳作「義父が来た夜」内川泰子

二十八年前の七月、夫の父が他界した。脳梗塞で十年間寝たきりだった。佐賀で義兄夫婦が介護していたのだ。当時私達は、北九州市で理容店を営んでいた。義父はわが家に来たがっていたのだが、願いが叶わなかった。

葬儀を終えて帰宅した夜。掛け布団の上から誰かに強く足を押さえられているような重苦しさを感じ、目が覚めた。薄暗い中、目を凝らすと誰かが足元に立っている。

一瞬、体が凍りついた。つい数時間前、棺に納めた義父の、あの時と同じ白装束と目にしたのだ。

「南無阿弥陀仏」と唱えるが、体が硬直し、声が出ない。その後、ミゾオチに焼け火箸を当てられたような熱さを残し、姿が消えた。

暫く布団を被って震えていた。午前四時頃、新聞配達のバイクの音がして起床した。一時後に夫が起きて来た。

顔面蒼白で「タベおやじが来とったやろ……」ボソっと呟く。部屋中が異様な雰囲気やったから、怖くて声をかけられんやった、ゴメン」と言った。

後で、私と夫の胸の同じ所に、百円玉ほどの赤いアザが出来ていたが、翌日には消えた。

二週間後、初盆で佐賀に帰った時、住職に話すと「それは、あの日お父さんがあなた達について行きなさったとですよ。赤いアザは行ったという証です」という。

生前、義父は九人兄弟の末っ子である夫を気にかけ、わが家に来たがっていたのだ。私に少し霊感があるため、私の前に現れたようだ。

以来、般若心経を覚え、毎朝読経している。