公募/コンテスト/コンペ情報なら「Koubo」

文章表現トレーニングジム 佳作「ゼロの晴天」松本俊彦

タグ
作文・エッセイ
結果発表
文章表現ジム
第15回 文章表現トレーニングジム 佳作「ゼロの晴天」松本俊彦

今から十五年前の夏、私は京都府綾部市に単身赴任していた。

綾部では、毎年花火大会がある。その夜、私は妻と小学六年と三年の娘たちと、私の両親を花火大会に招待した。

心配したのは天気である。せっかく招待したのに花火大会が中止になったのでは、家族も私もがっかりである。

花火大会が中止になる条件はふたつ。雨が降ることと、強風が吹くこと。幸い、その夜は降水ゼロ、風力ゼロの絶好の花火日和となった。

早いうちから場所をとり、屋台のたこ焼きを食べながら、打ち上げを待った。午後八時、一発目の大きな花火が打ち上げられた。あまり打ち上げ花火を見たことがなかった娘たちは大喜びである。

よかった。その夜のイベントはそれしかない。もし、それをつまらないと言われてしまったら、もうどうしようもない。もてなす側としては、まずはやれやれだ。二発目が上がった。

しかし、おかしい、空がおかしい。風力ゼロとはこういうことかと思った。一発目の花火の煙が、消えずにそこに残っているのである。その同じ位置に二発目を上げたものだから、花火が一部分しか見えないのである。

あとはご想像のとおり。花火を上げれば上げるほど、空は煙だらけになるばかり。まるで泥水の中を泳ぐ金魚を見ているような状況である。そのうち、花火がまったく見えなくなってしまった。「こういうこともあるんだねえ」もてなす側としては、そう言うしかなかった。