文章表現トレーニングジム 佳作「輝けるひと」 高根沢ゆり
第8回 文章表現トレーニングジム 佳作「輝けるひと」 高根沢ゆり
“恩師”と言うには気恥ずかしい。今から15年前、職員室で入部届を渡した女性教諭がその人だ。演劇部の顧問としてそこから6年間、お世話になった彼女。特別、大きいわけでもない、その瞳には力強い、なにかに初対面の時から強く惹かれた。名前に“星”がつく先生。瞳のなかにも、まぶしい、まぶしい、星がみえた。
先生は、段取りの悪いことが嫌い。小道具や衣装の準備にもたつけばたちまち不機嫌。稽古中でも緊張感を持たないことが大嫌い。中途半端な気持ちで臨むことは許さない。「愚か者!」「そんなこと自分で考えなさい!」と鬼のような形相、迫力ありすぎる声がしぃんとした教室に響き渡る。演劇少女だった時代からその情熱の炎は変わることなく燃え続けていた。怒っているときこそ彼女の瞳の星は瞬き、恐ろしいはずなのに美しい。
その演出はいつも的確で、心躍る名シーンをいくつも生み出した。「ほら、この方がよかったじゃない」。大会の帰り道トロフィーを抱えた私達に憎たらしい笑みをみせた。またその瞳からまた星がこぼれ落ちた。
それまであまり厳しくされたことのなかった私にとって先生は初めて出会う“異物”だった。「先生には負けない」「先生に認められたい」そんな一心で戦っていたのかもしれない。先生のこと嫌いだった。だけど時々、会いたいなと思う時もある。あの瞳の星は今も輝いているだろうか。私の大切な“忘れえぬ人”。