ばらのまち福山ミステリー文学賞
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文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。
多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。
受賞後の生存率は極めて高い
今回は五月十日締切(消印有効)の『ばらのまち福山ミステリー文学賞』を取り上げる。これは、光文社主催の、日本ミステリー文学大賞新人賞と同日の締切である。
江戸川乱歩賞とアガサ・クリスティー賞が、一月末の同日締切なのと同じで、どういう意図で同日締切に設定しているのか分からない。日本のミステリー界の将来を思えば、全てのミステリー系新人賞は、締切日をズラすべきだろう。
そのほうが、確率的には良い作品が集まってくるはずである。
さて、福山ミステリー文学賞は、地方文学賞の中では唯一のメジャー・デビュー可能な新人賞である。
他の新人賞は、たとえ受賞できても、メジャー・デビューが叶わず、ただ地方名士的な肩書を得られるだけに留まる。
福山ミステリー文学賞受賞作は、講談社、光文社、原書房のいずれかから刊行される輪番制度を採用している。
『ウィキペディア』で検索すると、受賞者のその後の作品刊行ペースが分かる。
江戸川乱歩賞受賞作家に匹敵する、中には、それを上回るペースで新作を出し続けている作家も存在する。賞金はゼロで印税のみ、という条件は鮎川哲也賞と同じだが、受賞後の生存率(プロ作家として文壇に生き残れる確率)の高さを考えたら、福山ミステリー文学賞を狙わない手はない。
奇しくも、鮎川哲也賞も受賞後の(受賞できなくても、最終候補に残った後の)生存率も、極めて高い。
江戸川乱歩賞の応募作品数が、三百五十作品前後で推移するのに対して、福山ミステリー文学賞は、平均して七十五作品ぐらいで、百作品を超えたことは一度もない。
また、江戸川乱歩賞の受賞作が、一作ないし二作なのに対して、福山ミステリー文学賞は、優秀作も含めて四作品が刊行された年が二回ある。応募作五十九作の内の四作が刊行された年度もあり、こうなると受賞確率は、実に十五分の一である。
これほど競争率の低い新人賞は、他に例を見ない。
ただ、受賞すればメジャー・デビューだけに、そうそう簡単には受賞できない。私の生徒も、だいたい毎回、一人か二人は予選突破してベスト15前後の範囲に名前を連ねるが、そこまでである。
キャラ作りに人間観察は不要
予選突破しても、それよりも上位に残れない生徒の作品は、概して主要登場人物のキャラが弱い。
キャラが弱くても、選考委員の島田荘司氏ばりの大きなスケールの本格トリックが捻り出せれば、キャラの弱さをカバーして受賞に到ると思われるのだが、なかなかそれは容易ではない。
トリックが「ほどほど」なら、どうしても登場人物のキャラで勝負する以外にないわけだが、これも前回の当講座で触れたように決して容易ではない。
まず、真面目な人間、平凡な人間はダメ(これが意外に多い)。
小説指南本によくあるアドバイスが、「普段から色々なところで人間観察して、この人はどんな生活をしているのだろう、などと想像せよ」というものだが、平凡な人物を観察しても、無意味である。
読者(選考委員)に受けるのは、「かなり性格的にヒネくれているが憎めない、言動がユニークで魅力的」という人物である。
こういう人物は映像化されやすくて、編集部のバックアップも入るので、グランプリは無理でも優秀賞などの名目で陽の目を見る可能性が高くなる。
ユニークなキャラを捻り出そうとする余り、少しも魅力的でない、嫌悪感を催すような人物造型をして、予選落ちする応募作も多々あるので要注意である。
ミステリーに時事ネタはNG
さて、選考委員の島田氏には本格トリックのミステリー作家の面と、社会派作家の面とがある。
つまり福山ミステリー文学賞は、この二つのタイプのどちらかの作品で応募することになる。第二回の受賞作『伽羅の橋』のように両タイプの要素を兼ね備えていれば申し分ないが(『伽羅』のキャラは弱かったが、両要素を併せ持っていたことで受賞に繋がった。
さて、受賞作で、ハードカバーで刊行された最後の作品は『経眼窩式』(植田文博)で、島田氏が「受賞作の優れた点は、公的には滅んだと思われていたロボトミー手術を現代の貧困ビジネスと結びつけ、現実社会のさまざまな悲劇をシミュレーションして見せた着眼点にある」と評したように典型的な社会派ミステリーである。
こういうミステリーで新人賞に挑戦する場合、往々にして陥りがちな罠が、時事ネタを書いてしまうことである。
時事ネタとは、新聞やテレビで頻繁に報道される社会問題で、たとえばDV、老人介護、痴呆徘徊、引きこもり、薬物依存、性同一性障害、偽装難民などで、応募作に殺到することになる。
そうすると似たり寄ったりになって「オリジナリティなし」で十把一絡げで落とされることになる。
その辺りを、どうクリアーして独自の特徴を出すか、『経眼窩式』は参考になる作品と言える。
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あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP! 若桜木先生が、ばらのまち福山ミステリー文学賞を受賞するためのテクニックを教えます!
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受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた! あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!
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若桜木先生が送り出した作家たち
| 日経小説大賞 |
西山ガラシャ(第7回) |
|---|---|
| 小説現代長編新人賞 |
泉ゆたか(第11回) 小島環(第9回) 仁志耕一郎(第7回) 田牧大和(第2回) 中路啓太(第1回奨励賞) |
| 朝日時代小説大賞 |
木村忠啓(第8回) 仁志耕一郎(第4回) 平茂寛(第3回) |
| 歴史群像大賞 |
山田剛(第17回佳作) 祝迫力(第20回佳作) |
| 富士見新時代小説大賞 |
近藤五郎(第1回優秀賞) |
| 電撃小説大賞 |
有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞) |
| 『幽』怪談文学賞長編賞 |
風花千里(第9回佳作) 近藤五郎(第9回佳作) 藤原葉子(第4回佳作) |
| 日本ミステリー文学大賞新人賞 | 石川渓月(第14回) |
| 角川春樹小説賞 |
鳴神響一(第6回) |
| C★NOVELS大賞 |
松葉屋なつみ(第10回) |
| ゴールデン・エレファント賞 |
時武ぼたん(第4回) わかたけまさこ(第3回特別賞) |
| 新沖縄文学賞 |
梓弓(第42回) |
| 歴史浪漫文学賞 |
扇子忠(第13回研究部門賞) |
| 日本文学館 自分史大賞 | 扇子忠(第4回) |
| その他の主な作家 | 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司 |
| 新人賞の最終候補に残った生徒 | 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞) |
若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール
昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。
文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。
多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。
受賞後の生存率は極めて高い
今回は五月十日締切(消印有効)の『ばらのまち福山ミステリー文学賞』を取り上げる。これは、光文社主催の、日本ミステリー文学大賞新人賞と同日の締切である。
江戸川乱歩賞とアガサ・クリスティー賞が、一月末の同日締切なのと同じで、どういう意図で同日締切に設定しているのか分からない。日本のミステリー界の将来を思えば、全てのミステリー系新人賞は、締切日をズラすべきだろう。
そのほうが、確率的には良い作品が集まってくるはずである。
さて、福山ミステリー文学賞は、地方文学賞の中では唯一のメジャー・デビュー可能な新人賞である。
他の新人賞は、たとえ受賞できても、メジャー・デビューが叶わず、ただ地方名士的な肩書を得られるだけに留まる。
福山ミステリー文学賞受賞作は、講談社、光文社、原書房のいずれかから刊行される輪番制度を採用している。
『ウィキペディア』で検索すると、受賞者のその後の作品刊行ペースが分かる。
江戸川乱歩賞受賞作家に匹敵する、中には、それを上回るペースで新作を出し続けている作家も存在する。賞金はゼロで印税のみ、という条件は鮎川哲也賞と同じだが、受賞後の生存率(プロ作家として文壇に生き残れる確率)の高さを考えたら、福山ミステリー文学賞を狙わない手はない。
奇しくも、鮎川哲也賞も受賞後の(受賞できなくても、最終候補に残った後の)生存率も、極めて高い。
江戸川乱歩賞の応募作品数が、三百五十作品前後で推移するのに対して、福山ミステリー文学賞は、平均して七十五作品ぐらいで、百作品を超えたことは一度もない。
また、江戸川乱歩賞の受賞作が、一作ないし二作なのに対して、福山ミステリー文学賞は、優秀作も含めて四作品が刊行された年が二回ある。応募作五十九作の内の四作が刊行された年度もあり、こうなると受賞確率は、実に十五分の一である。
これほど競争率の低い新人賞は、他に例を見ない。
ただ、受賞すればメジャー・デビューだけに、そうそう簡単には受賞できない。私の生徒も、だいたい毎回、一人か二人は予選突破してベスト15前後の範囲に名前を連ねるが、そこまでである。
キャラ作りに人間観察は不要
予選突破しても、それよりも上位に残れない生徒の作品は、概して主要登場人物のキャラが弱い。
キャラが弱くても、選考委員の島田荘司氏ばりの大きなスケールの本格トリックが捻り出せれば、キャラの弱さをカバーして受賞に到ると思われるのだが、なかなかそれは容易ではない。
トリックが「ほどほど」なら、どうしても登場人物のキャラで勝負する以外にないわけだが、これも前回の当講座で触れたように決して容易ではない。
まず、真面目な人間、平凡な人間はダメ(これが意外に多い)。
小説指南本によくあるアドバイスが、「普段から色々なところで人間観察して、この人はどんな生活をしているのだろう、などと想像せよ」というものだが、平凡な人物を観察しても、無意味である。
読者(選考委員)に受けるのは、「かなり性格的にヒネくれているが憎めない、言動がユニークで魅力的」という人物である。
こういう人物は映像化されやすくて、編集部のバックアップも入るので、グランプリは無理でも優秀賞などの名目で陽の目を見る可能性が高くなる。
ユニークなキャラを捻り出そうとする余り、少しも魅力的でない、嫌悪感を催すような人物造型をして、予選落ちする応募作も多々あるので要注意である。
ミステリーに時事ネタはNG
さて、選考委員の島田氏には本格トリックのミステリー作家の面と、社会派作家の面とがある。
つまり福山ミステリー文学賞は、この二つのタイプのどちらかの作品で応募することになる。第二回の受賞作『伽羅の橋』のように両タイプの要素を兼ね備えていれば申し分ないが(『伽羅』のキャラは弱かったが、両要素を併せ持っていたことで受賞に繋がった。
さて、受賞作で、ハードカバーで刊行された最後の作品は『経眼窩式』(植田文博)で、島田氏が「受賞作の優れた点は、公的には滅んだと思われていたロボトミー手術を現代の貧困ビジネスと結びつけ、現実社会のさまざまな悲劇をシミュレーションして見せた着眼点にある」と評したように典型的な社会派ミステリーである。
こういうミステリーで新人賞に挑戦する場合、往々にして陥りがちな罠が、時事ネタを書いてしまうことである。
時事ネタとは、新聞やテレビで頻繁に報道される社会問題で、たとえばDV、老人介護、痴呆徘徊、引きこもり、薬物依存、性同一性障害、偽装難民などで、応募作に殺到することになる。
そうすると似たり寄ったりになって「オリジナリティなし」で十把一絡げで落とされることになる。
その辺りを、どうクリアーして独自の特徴を出すか、『経眼窩式』は参考になる作品と言える。
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あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP! 若桜木先生が、ばらのまち福山ミステリー文学賞を受賞するためのテクニックを教えます!
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受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた! あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!
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若桜木先生が送り出した作家たち
| 日経小説大賞 |
西山ガラシャ(第7回) |
|---|---|
| 小説現代長編新人賞 |
泉ゆたか(第11回) 小島環(第9回) 仁志耕一郎(第7回) 田牧大和(第2回) 中路啓太(第1回奨励賞) |
| 朝日時代小説大賞 |
木村忠啓(第8回) 仁志耕一郎(第4回) 平茂寛(第3回) |
| 歴史群像大賞 |
山田剛(第17回佳作) 祝迫力(第20回佳作) |
| 富士見新時代小説大賞 |
近藤五郎(第1回優秀賞) |
| 電撃小説大賞 |
有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞) |
| 『幽』怪談文学賞長編賞 |
風花千里(第9回佳作) 近藤五郎(第9回佳作) 藤原葉子(第4回佳作) |
| 日本ミステリー文学大賞新人賞 | 石川渓月(第14回) |
| 角川春樹小説賞 |
鳴神響一(第6回) |
| C★NOVELS大賞 |
松葉屋なつみ(第10回) |
| ゴールデン・エレファント賞 |
時武ぼたん(第4回) わかたけまさこ(第3回特別賞) |
| 新沖縄文学賞 |
梓弓(第42回) |
| 歴史浪漫文学賞 |
扇子忠(第13回研究部門賞) |
| 日本文学館 自分史大賞 | 扇子忠(第4回) |
| その他の主な作家 | 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司 |
| 新人賞の最終候補に残った生徒 | 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞) |
若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール
昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。