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佳作「三毛猫の退屈 江原有香」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第16回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「三毛猫の退屈 江原有香」

風鈴の音で目を覚ました。頭上で鳴る、三百個ほどの風鈴。にゃあ、と鳴くと、おじいちゃんがやってきた。

「風が吹いたのか」

僕の頭を撫で、ふっとため息をついた。しわだらけの手はあたたかく、心地よかった。

「人が死んだか……」

僕とおじいちゃんの住むこの家には、人が死ぬと風が吹く。そよ風のようなあたたかい風は、近くで人が死んだことを表す。

おじいちゃんは風を感じることができないから、こうしてたくさんの風鈴をつけている。これで、おじいちゃんは風を感じているのだ。

目を細めて風鈴を見つめるおじいちゃんはいつも、僕には風を待っているように見えた。

「今、ご飯をつくってくるから。良い子で待ってなさい」

僕はわくわくしながら、にゃあ、と返事をした。

おじいちゃんが部屋を出てすぐ、窓際に一匹のすずめがとまった。この部屋から出たことのない僕に、外の世界を教えてくれる。

――誰か死んだのかい? 僕がたずねる。

――三軒となりの酒屋の母さんだ。

――そうか。おじいちゃんがよく話してたな。

――あそこの母さんはおもしろかった。

それにしても、とすずめが外を気にする。

――どうして君は外に出れないんだい?

――外は恐いからだって。

おじいちゃんの足音がすると、すずめはチチッと鳴いて飛んでいった。

今日のご飯は、かつおぶしをまぶしたねこまんま。僕はかつおぶしが一番の大好物だ。おじいちゃんは風が吹いた日だけ、かつおぶしをたっぷりとまぶしてくれる。

「じゃあ、ちょっと隣の部屋で昼寝をしてくるからね」

にゃあ、と返事をして、おじいちゃんを見送った。

また、風鈴の音で目が覚めた。欠伸をして、にゃあ、と鳴く。おじいちゃんは来ない。

窓の外を見ると、朝のようだった。ということは、もう一日近く眠っていたんだろう。

もう一度、にゃあ、と鳴く。おじいちゃんは、やっぱり来ない。

まだ、昼寝してるのかな。

だとしたら、あまり起こしちゃいけない気がした。後で教えてあげればいいのだ。

窓にすずめがとまっているのも気にせずに、僕はもう一度目を閉じた。

もう三日が経つ。おじいちゃんは、あれからいくら呼んでも来なくなった。もうお腹が空いて、がまんができない。

僕はおこられるのを承知で、部屋を出た。おじいちゃんがいるはずの、隣の部屋へ向かう。

おじいちゃんは、まだ眠っていた。にゃあ、と鳴くが、目を覚まさない。

お腹が空いた。僕は、おさえきれない眠気におそわれる。

おじいちゃんのしわしわの手に寄りそって、僕はそっと目を閉じた。おじいちゃんの手は、少し冷たく感じられた。