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選外佳作「コレクション 安藤一明」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第26回 阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「コレクション 安藤一明」

大学からの帰り道、僕は財布を拾った。交番に届けようかとも思ったが、かなり距離がある。近ければ自分で届けてもいいな。そう思って財布の中身を調べてみた。中には数枚の一万円札と小銭が少々。そして、メモ用紙が入っていた。

「もし私がこれを落としたら、屋敷まで届けてください 山野香織 住所は……」

香織というからには、持ち主は女のようだ。

現在、彼女のいない僕は下心を抱き、書いてあった住所の屋敷に行ってみることにした。

そこは映画で見るような大きな屋敷だった。高い塀がずっと続いていて、表に門がある。

門の向こうに広い芝生があり、その更に向こうには、立派な屋敷があった。

僕は拾った財布を手に、門のインターフォンを押した。若い女の声がインターフォンから聞こえた。

「はい。どちら様ですか?」

「あの……。財布を拾ったんですが」

「まあ、すみません。今、行きます」

しばらくして屋敷のドアが開き、美しい少女が門のところにやって来た。少女は小学五年生くらいだろうか。

門が開き、少女が出てきた。

「あなたが財布を拾ってくれたのね」

「まあ、そうですが」

「親切なあなたにお礼をしたいわ。さあ、屋敷に寄ってください」

やけに大人びた応対をする少女だった。僕は少女のお礼を受けることにした。少女に続いて屋敷に入った。

屋敷の玄関は、かなりの広さで、あちこちに高そうな壷や絵画が飾ってあった。少女はリビングに僕を通した。

座り心地のいいソファに腰かけると、少女は隣の部屋に姿を消した。

戻ってきた少女は両手にティーカップを二つ持っていた。僕の前のテーブルにティーカップが小さな音と共に置かれる。中身は紅茶だった。

僕は、ありがたく紅茶を一口頂いた。

少女は紅茶を飲みながら、僕をじっと見つめている。

僕は訊いた。

「君の家は金持ちなのかい?」

「ええ。パパとママは会社の社長なの。仕事で海外に行ってるけど。ここは私と執事しか住んでいないの」

執事とは、すごい。

僕が紅茶を飲み終えると、少女は言った。

「あなたは、すごく親切なのね。お礼に私のコレクションを見せてあげる」

「コレクション?」

少女はリビングを出て広い廊下を歩いていく。僕も後に続いた。廊下の突き当たりに白いドアがあった。

少女はドアを開けた。中には地下へと続く階段がある。僕は少女と一緒に暗い階段を下りた。

地下室は真っ暗だった。

「今、明かりをつけるわ」

すぐに天井の蛍光灯が、カチカチと小さな音を立てて、狭い地下室のコンクリートの壁と床を照らし出した。

僕は息を飲んだ。

そこには人間のはく製が、五体ほど立っていたのだ。全員が男だった。

「これは……人間なのか?」

少女は笑いながら首を横に振った。

「違うわ。これ、蝋人形なのよ」

僕は少女の言葉に安堵した。

それにしてもリアルに出来ている。

「まるで本物だな」

僕は蝋人形の一つをじっと見つめた。

少女は自慢げに言った。

「これが私のコレクションなのよ」

何だろう? 急にまわりの風景が、ぐらぐらと揺れ始めた。気分が悪い。

少女は僕に微笑みかけた。

「実はこれ、蝋人形じゃないの。本物の人間よ。私、親切な男の人が好きなの。だから、わざと財布を落として、届けてくれた人をコレクションしてるのよ。あなたは六人目の親切な男としてコレクションに加わるの」

僕はようやく気がついた。

さっきの紅茶の味は、少し変だったかもしれない。

逃げようと思い、階段の方を向いた。しかし、体の自由が効かない。僕は地下室の冷たいコンクリートの上に倒れた。

だんだんと意識が薄れていく。

僕がこの世で最後に見たものは、美しい少女の笑みだった。