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プロ中のプロがあなたの才能を引き出す! 選考委員が教える小説講座②

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※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。

小説を書くためには、どのような準備をして、どう書き進めればいいか。
スティーヴン・キングは言う。
「小説は筋書きのないドラマ。周到に計画したところでその通りに行くものではない」
しかし、ずぶの素人がまったくのノープランで書き出して、果たしてうまく行くか。十中八九は無理だろう。
では、どうするのがベストなのか。
そのあたりのコツを、ベテラン作家でもあり、選考委員も務める4人のプロに聞いてみた。

1:貴志祐介先生インタビュー

ホラー小説、SF、推理小説を手掛け、『悪の教典』『鍵のかかった部屋』など、映画化、ドラマ化された作品も多数ある人気作家の貴志祐介さん。ベストセラー作家に、エンターテインメント小説の書き方を学ぼう。

冒頭、クライマックス、結末という物語の骨格を決め、そこから肉付けに必要なキャラクターや世界観を作り広げていく。

――日本ホラー小説大賞を受賞した『黒い家』のアイデアは、以前からあたためていたのですか?

前年に佳作に入ったあと、次回も応募しないかと勧められ、締切まで時間がなかったので、自分の知っていることを書こうと。生命保険会社に勤務していましたが、ここはネタの宝庫でした。生命保険って人間の業とつながっていて、非常に怖い部分があるんです。

――アイデアは、いつもどうやってストックされているのですか?

すぐ忘れてしまうので、とにかくメモをしますね。アイデアの萌芽みたいなものです。それが次第に増えて融合し育ってくると、小説の世界が予想できるようになる。そうしたら独立したファイルを作り、仮のタイトルをつけて、さらに膨らませていきます。

――アマチュアにお勧めのプロットの組み立て方を教えてください。

まずは冒頭、クライマックス、結末という物語の骨格を決めます。そこから肉付けに必要なキャラクターや世界観を作って広げていく。プロは見切り発車でも力技でどうにかで
きますが、アマチュアの方は時間をかけてしっかりと作り込み、それから書くことをお勧めします。

長編を最後まで読ませるには、推進力となるメインエンジンの「大きな謎」と、補助ブースターとしての「小さな謎」が必要。

――最後まで面白く読ませるコツというのはあるのでしょうか?

長編を最後まで読ませるには、推進力となるメインエンジンが必要です。それが「大きな謎」。しかし、それだけではだめで、補助ブースターとして「小さな謎」が必要です。読み進めながら小さな謎が解かれていくと、物語が前進している感じがして読むのが止まらなくなるわけです。

――書くうえで新人がやりがちな失敗はありますか?

ある章から次の章に移るときに、説明や間つなぎのための章を作るのは間違いです。たいていの読者はそこで読むのをやめます。面白くないならその章は削るべきです

――その「面白さ」が難しいです。

まずは作者が面白いと感じながら乗って書かなければ、当然読者も面白くないわけです。アクションシーンの派手な戦いの面白さもあれば、地味な謎解きの面白さもある。何かが氷解したときや変なキャラクターの登場など、いろんな面白さを入れながら緊張と緩和を作るといい。私の作品には少ないですが、基本的にみなハッピーエンドやサクセスストーリーが好きです。そういう爽快感を与えるのも重要です。逆にどんどん破滅に向かっていくことも補助ブースターになる。各章に必ず読みどころを入れるべきですね。

成長型や天才型、どちらの主人公も魅力的だと思います。ただし、読者は悪人を許容しても、無能な人間は受け入れない。

――魅力的なキャラクター作りも重要になってきますね。

成長型や天才型、どちらの主人公も魅力的だと思います。ただし、読者は悪人は許容しても、無能な人間は受け入れない。ドジで失敗ばかりだとイライラするのですね。『悪の教典』の蓮実のような悪人でも、悪の分野で限りなく有能な人間は読んでいて面白い。特に女性は、善良で無能な人をまったく評価してくれません(笑)。危険な香りどころか本当に危険な人間であっても、できる男はもてるんだなと思います。

――書き終えたあとの推敲のポイントを教えてください。

長すぎる文章や独りよがりの比喩をなくし、すらすら読めるようにする。クライマックスやテーマを訴えるページはつい力が入りがち。そういうところほど平易にすべき。また、不要な部分はばっさり削る。勇気が要りますが、必ず良くなります。

――選考会で選ばれやすい作品はありますか?

何より自分の中で特出して面白いものを書くこと。自分の資質は何か、この本の売りが何なのかを際立たせる。たとえばミステリー作品で、トリックはしょぼくても、知られざる世界が面白く描かれていれば通ることがある。いろんな作品を見て、自分が何に面白いと思うかを考えてほしいです。

――作家を目指す読者へメッセージをお願いします。

『エンタテインメントの作り方』は私が培ったノウハウをわかりやすくまとめました。読んで書くと初めて腑に落ちます。まずは書いてみてください。

 

貴志祐介

1959年、大阪府生まれ。96年『十三番目の人格 ISOLA』で日本ホラー小説大賞佳作を受賞しデビュー。翌年『黒い家』で同賞大賞を受賞。『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、『新世界より』で日本SF大賞、『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。ほか、『鍵のかかった部屋』『青の炎』『雀蜂』など著書多数。

 

※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。