戦後消えた日本女性の足跡 復刻版教科書に描かれた歴史


教科書から消えた女性たちの物語
紫式部や和宮親子内親王は歴史の授業で学んでも、夫の死後に自ら軍を率いて出征した皇后の決断や、関ヶ原の前哨戦で人質となることを拒んで自害した武将の妻、そして勤王の志士を匿い孤島に流された女性たちの存在は、ほとんど知られていない。大東亜戦争末期に文部省が著した高等女学校用国史教科書『中等歴史 二・三』は、戦後GHQの指令により回収・処分されたが、この貴重な教科書には現代の歴史教科書では触れられない女性たちが、神代から幕末に至る通史の中に時代を追って具体的に描かれている。
各時代の歩みを支えた女性たちの事績
本書が最大の特色とするのは、「女子用」として編まれた国史教科書である点である。男子用とは異なり、各時代の節目に女性の事績が意識的に盛り込まれている。「皇威の発展」の章では、皇女が神鏡の奉斎を担った記録が、「平安の御代」では紫式部や清少納言に加え、和泉式部や伊勢大輔、赤染衛門、小式部内侍といった女流歌人たちが並んで登場する。「京かまくら」の章では北条政子の内助の功とともに、時頼の母・松下禅尼が子に家訓を伝えた話が語られ、「室町と戦国」では武田勝頼の妻が天目山で夫と運命を共にした経緯や、細川忠興の妻が貞節を全うするために自ら死を選んだ場面が描かれている。
知られざる女性たちの活動と足跡
赤穂浪士の討ち入りを支えた母たちの話は広くは知られていない。大高源吾とその弟の母・貞立尼は、両児の切腹に涙一滴見せず、義士の遺族を助け励まし、死に至るまで菩提を弔い続けたと本書は記している。加賀の千代女は「朝顔につるべとられてもらひ水」の句で知られる俳人であり、荒木田麗女は伊勢の祠官の家に生まれ、和歌や連歌、歴史物語を著した。太田垣蓮月尼は諸芸に通じ、陶器製作の収入を貧民への施しに使ったという。いずれも歴史の本流には登場しない女性たちだが、本書では読み進めるうちに「この時代にも、こういう女性がいたのか」という発見の連続がある。
忘れられた女性たちの存在を伝える復刊の意義
歴史書の中の女性たちは、しばしば「誰かの妻」「誰かの母」として登場し、名前すら記されないことがある。本書も完全にはその傾向を免れていないが、少なくとも女性の事績を各時代に意識的に位置づけようとした稀な構成である。敗戦による歴史の断絶によって伝えられなくなった日本女性の姿がこの一冊に残されている。旧字・旧仮名遣いは現代表記に改められ、難解な語彙には巻末の用語説明が付いているため通読に支障はなく、文語調の語り口や当時特有の言い回しは現代の歴史書とは異なる読み味を提供する。書名は『中等歴史国史篇 女子用』で、著者は文部省、解説は杉田水脈が担当している。2026年5月19日発売予定、ハート出版より、本体1700円(税別)である。
出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000224.000049367.html