第6回「小説でもどうぞ」選外佳作 恋だの愛だの/美羽
第6回結果発表
課 題
恋
※応募数394編
選外佳作「恋だの愛だの」美羽
まただ。
奈央は僕の都合などお構いなしに「会おう」と連絡してくる。たしかに僕らは幼なじみで、小さいときにはお風呂も一緒に入った仲だし、兄弟よりも話しやすいというところがある。
けど、もう三十に近いんだぜ。いつまでも妹感覚じゃあ困るんだけど……と言いながら、のこのこと出かける僕も、なんだかなあ……。
「私が恋だの愛だのっていうキャラだと思う?」
「いや……」
「ちょっとイケメンだと思っていい気になっているのよ」
「何の話し?」
「だからぁ。昨日まで付き合ってやってた男の話よ」
「なるほど」
そういえば、奈央は、男に振られるたびに僕に愚痴を言う。
決して「振られた」とは言わないが、話しの流れですぐに分かる。今回はどんな振られ方をしたんだろう。
「私に気があるそぶりをしてるからさ、ちょっと付き合ってあげたのよね。まあ、嫌な感じじゃなかったから、食事に行ったり映画につきあったりしてあげてたわけ」
いつもながら、ずいぶん上から目線だ。
「いつもデート代はあいつが出してたのよね。気前が良いなと思ったわ。だって、よし坊とはいつも割り勘だもんね」
「おい、外ではよし坊って呼ぶなって言ってるだろう」奈央は、三十近い僕を今でもよし坊って呼ぶ。
「他の男だって、たいてい割り勘よ。最近の男は軟弱だわあ」
「軟弱で悪かったね。おごって貰おうって思っている奈央の方がおかしいと思うけどね」
「あら、父さんの時代は違ったそうよ。彼女のために車まで買って、彼女のためにブランドのバッグをプレゼントしたり……」
聞いちゃいられない。
「親の時代はバブル全盛期だったからね。お金の回りがよかったんだ。奈央のパパは、特に大企業に勤めていたからね。ママだって色々と良い思いをしていただろうね。今は……だめだね。今と一緒にしちゃだめだよ。で、その男とはどうなったの?」
あっ、失敗した。こっちから話しを振るんじゃなかった。
奈央は急に下を向き、大袈裟なぐらい肩を落とした。いつもなんだ。あわれな私を見てちょうだいって、僕に猛アピールしてくる。いつも強そうな奈央だけど、この時は守ってあげなくちゃなんて、思ったり……しなくもない。
「私は悪くないわ!」
「奈央が悪いなんて言ってないよ。で?」「お茶を飲みに入ったのよ。メニューを見たら、期間限定って美味しそうなパフェがあったの。期間限定よ。食べない理由がないわ」
「美味かった?」あっ、また聞いてしまった。
「美味しいに決まってるじゃない。幸せな気分になって、食べるのに夢中になっていたの。食べ終わって、ふっと彼を見たら怖い顔をしているのよ。訳わかんない」
「だから、夢中過ぎて、彼を無視して食べてたんだろう? 目に浮ぶよ」
「だって本当に美味しかったんだから」
奈央は、美味しい物は本当に美味そうに食べる。だから、奈央と食事に行くのは楽しい。何も喋らなくても、奈央が食べてるのを見ているだけで嬉しくなる。
「何ニヤニヤしてるのよ」
「いや、別に」
「私が悲しい話をしているときは悲しい顔で聞いてよね」
やっぱり、振られて悲しいんだ。かわいいやつだ。
「で、彼が『僕は珈琲だけだから』って、五百円玉一個置いて出て行ったの。そんな別れ方ってある?」
そんな別れ方があったんだろう。だって奈央は振られたんだから。
「私が恋だの愛だのっていうキャラだと思う?」
「うん?さっき聞いたような」
「暇つぶしに付き合ってやっただけなのに、まるで『振りました』みたいな態度でさ」
なぐさめの言葉を探していると、奈央の手がメニューにのびた。
「よし坊に話したらスッキリした。これ食べる! このケーキ、ぜったい美味しい!」
奈央のケーキをほおばる顔が好きだ。
うん? 好き?
今日の僕はどうかしている。今日の僕の目には、いつもと違う奈央がいる。
奈央と僕の間に、恋だの愛だのって……。
(了)
奈央は僕の都合などお構いなしに「会おう」と連絡してくる。たしかに僕らは幼なじみで、小さいときにはお風呂も一緒に入った仲だし、兄弟よりも話しやすいというところがある。
けど、もう三十に近いんだぜ。いつまでも妹感覚じゃあ困るんだけど……と言いながら、のこのこと出かける僕も、なんだかなあ……。
「私が恋だの愛だのっていうキャラだと思う?」
「いや……」
「ちょっとイケメンだと思っていい気になっているのよ」
「何の話し?」
「だからぁ。昨日まで付き合ってやってた男の話よ」
「なるほど」
そういえば、奈央は、男に振られるたびに僕に愚痴を言う。
決して「振られた」とは言わないが、話しの流れですぐに分かる。今回はどんな振られ方をしたんだろう。
「私に気があるそぶりをしてるからさ、ちょっと付き合ってあげたのよね。まあ、嫌な感じじゃなかったから、食事に行ったり映画につきあったりしてあげてたわけ」
いつもながら、ずいぶん上から目線だ。
「いつもデート代はあいつが出してたのよね。気前が良いなと思ったわ。だって、よし坊とはいつも割り勘だもんね」
「おい、外ではよし坊って呼ぶなって言ってるだろう」奈央は、三十近い僕を今でもよし坊って呼ぶ。
「他の男だって、たいてい割り勘よ。最近の男は軟弱だわあ」
「軟弱で悪かったね。おごって貰おうって思っている奈央の方がおかしいと思うけどね」
「あら、父さんの時代は違ったそうよ。彼女のために車まで買って、彼女のためにブランドのバッグをプレゼントしたり……」
聞いちゃいられない。
「親の時代はバブル全盛期だったからね。お金の回りがよかったんだ。奈央のパパは、特に大企業に勤めていたからね。ママだって色々と良い思いをしていただろうね。今は……だめだね。今と一緒にしちゃだめだよ。で、その男とはどうなったの?」
あっ、失敗した。こっちから話しを振るんじゃなかった。
奈央は急に下を向き、大袈裟なぐらい肩を落とした。いつもなんだ。あわれな私を見てちょうだいって、僕に猛アピールしてくる。いつも強そうな奈央だけど、この時は守ってあげなくちゃなんて、思ったり……しなくもない。
「私は悪くないわ!」
「奈央が悪いなんて言ってないよ。で?」「お茶を飲みに入ったのよ。メニューを見たら、期間限定って美味しそうなパフェがあったの。期間限定よ。食べない理由がないわ」
「美味かった?」あっ、また聞いてしまった。
「美味しいに決まってるじゃない。幸せな気分になって、食べるのに夢中になっていたの。食べ終わって、ふっと彼を見たら怖い顔をしているのよ。訳わかんない」
「だから、夢中過ぎて、彼を無視して食べてたんだろう? 目に浮ぶよ」
「だって本当に美味しかったんだから」
奈央は、美味しい物は本当に美味そうに食べる。だから、奈央と食事に行くのは楽しい。何も喋らなくても、奈央が食べてるのを見ているだけで嬉しくなる。
「何ニヤニヤしてるのよ」
「いや、別に」
「私が悲しい話をしているときは悲しい顔で聞いてよね」
やっぱり、振られて悲しいんだ。かわいいやつだ。
「で、彼が『僕は珈琲だけだから』って、五百円玉一個置いて出て行ったの。そんな別れ方ってある?」
そんな別れ方があったんだろう。だって奈央は振られたんだから。
「私が恋だの愛だのっていうキャラだと思う?」
「うん?さっき聞いたような」
「暇つぶしに付き合ってやっただけなのに、まるで『振りました』みたいな態度でさ」
なぐさめの言葉を探していると、奈央の手がメニューにのびた。
「よし坊に話したらスッキリした。これ食べる! このケーキ、ぜったい美味しい!」
奈央のケーキをほおばる顔が好きだ。
うん? 好き?
今日の僕はどうかしている。今日の僕の目には、いつもと違う奈央がいる。
奈央と僕の間に、恋だの愛だのって……。
(了)