第6回「小説でもどうぞ」佳作 代筆屋/猪又琉司
第6回結果発表
課 題
恋
※応募数394編
「代筆屋」猪又琉司
八頭身のイケメン男子・海聖が、校門の前で私を待ち伏せて出し抜けに聞いてきた。
「ちょっと、話があるんだけど。時間いい?」
落ち着け。ここでアタフタしたら、軽いオンナに見られる。すまし顔で「なんか用?」とかましてやった。
「あのさ、好きなんだよね」
マジ? ようやく、私の隠れた魅力に気づく男子が現れたか。しかも、こんなイケメン。ワンチャンいけると思った矢先に、海聖がいった。
「伊集院華代さんのこと」
ですよね~。どう間違えても私の名前は華代とは読めない。たぶん彼のいう華代は、付き合った彼氏が徳川将軍より多い手練れのことだろう。
「だから、何?」
強がっても、乙女。心なしか声が震える。
「いや、やって欲しいんだよ。例の……」
ああ、そういうこと。私は最近、LINEやメールの代筆をする裏家業に手を染めていた。長年に渡って少女マンガで身につけた恋愛トーク術を駆使し、数々のカップルを成立させてきた。だが、しかし。この男に私の助けが必要だろうか。イケメンだがゆるふわ系。格好よくて癒やされる無敵の武器を併せ持っている。この海聖ならば、どんな女子でもイチコロに口説けるだろうに。いや、だからこそ、アリか。自分が手がけたにも関わらず、失敗に終わったら代筆屋の名折れだ。放っておいても成功する案件を逃す手はない。
とりあえず、私はファミレスで海聖の話を聞くことにした。まず知らなければならないのが、対象者である華代との現在の距離だ。すでにイイ感じならば、一押しすればいいだけだから楽なのだが。
「LINEとか、メアドとか知ってるの」
「いや……」
「しゃべったことは?」
「ない」
終わった。「じゃあ、LINE開通するところからじゃない」と、私が言うとコヤツはとんでもない事実を告げた。
「オレ、ケイタイ持ってない」
海聖は、それがどうした、とばかり不思議そうな顔をするからたちが悪い。
「じゃあ、どうするつもりなの」
「え、手紙書こうと思ったんだけど」
「昭和か!」
思わず裏手で芸人ツッコミをしたが、海聖は大マジで瞳をウルウルさせながらこちらを見つめるばかり。決してふざけているわけではなさそうだ。話を聞けば聞くほど、このローテク男はズルい。一番は、自分がイケてることに気づいていないことだ。通常このルックスなら、チヤホヤされて勘違いするところだろうが、聞くところによると中学まで全校生徒20人あまりの山村の学校に通っていたらしく、さっぱり注目されることがなかったらしい。きらびやかな世界を知らずに育った天然素材が、初めて心ときめいた相手が、寄りにもよって百戦錬磨のモテ女・華代ってわけ。
「あんた、小細工してもたぶん無理だから。気持ちをそのまま書けばいいの」
「気持ちって?」
私は、ノートを取り出しサラサラと書くと、海聖に見せた。
『突然ですが、華代さん。私はあなたの見た目が好きです。こんなことをいうと、軽薄な奴だと思われるかもしれませんが、私は形ある物しか信じません。内面なんてどうでもいいのです。あなたがもし、わがままでどうしようもなく私を振り回したとしても、私はあなたの形のよい唇を眺めます。そうすれば、すべてを許せます。あなたがその美しい容姿を保ち続ける限り、私はあなたのしもべであり続けます』
海聖は、読むなり絶句し「これ、何?」と問うた。私は、言う。
「この手紙を渡したら、100%落ちるよ。だって、こんな事書く馬鹿いないもの」
「嫌だよ」
海聖はテーブルを叩き、詰め寄った。
「なんで? 答えられないなら教えてあげる。これが、あんたの本当の気持ちだからよ。上辺のきれいさに惹かれて近づいて、合わなかったらごめんなさいじゃ、華代がかわいそうだよ。当たって砕ける前に、どうして自分はこんな人間です。あなたを知りたいです、とぶつからないの!」
やってもうた。適当に流して金だけふんだくれば良かったのに。私は席を立ち、しょんぼりとした海聖を見つめた。自分がへこませたのに、ダメだ。傷ついたイケメンは最強にズルい。もう、止まらない。
「私はあなたを知りたい」
気づいたら、言ってたんだよね。
(了)
「ちょっと、話があるんだけど。時間いい?」
落ち着け。ここでアタフタしたら、軽いオンナに見られる。すまし顔で「なんか用?」とかましてやった。
「あのさ、好きなんだよね」
マジ? ようやく、私の隠れた魅力に気づく男子が現れたか。しかも、こんなイケメン。ワンチャンいけると思った矢先に、海聖がいった。
「伊集院華代さんのこと」
ですよね~。どう間違えても私の名前は華代とは読めない。たぶん彼のいう華代は、付き合った彼氏が徳川将軍より多い手練れのことだろう。
「だから、何?」
強がっても、乙女。心なしか声が震える。
「いや、やって欲しいんだよ。例の……」
ああ、そういうこと。私は最近、LINEやメールの代筆をする裏家業に手を染めていた。長年に渡って少女マンガで身につけた恋愛トーク術を駆使し、数々のカップルを成立させてきた。だが、しかし。この男に私の助けが必要だろうか。イケメンだがゆるふわ系。格好よくて癒やされる無敵の武器を併せ持っている。この海聖ならば、どんな女子でもイチコロに口説けるだろうに。いや、だからこそ、アリか。自分が手がけたにも関わらず、失敗に終わったら代筆屋の名折れだ。放っておいても成功する案件を逃す手はない。
とりあえず、私はファミレスで海聖の話を聞くことにした。まず知らなければならないのが、対象者である華代との現在の距離だ。すでにイイ感じならば、一押しすればいいだけだから楽なのだが。
「LINEとか、メアドとか知ってるの」
「いや……」
「しゃべったことは?」
「ない」
終わった。「じゃあ、LINE開通するところからじゃない」と、私が言うとコヤツはとんでもない事実を告げた。
「オレ、ケイタイ持ってない」
海聖は、それがどうした、とばかり不思議そうな顔をするからたちが悪い。
「じゃあ、どうするつもりなの」
「え、手紙書こうと思ったんだけど」
「昭和か!」
思わず裏手で芸人ツッコミをしたが、海聖は大マジで瞳をウルウルさせながらこちらを見つめるばかり。決してふざけているわけではなさそうだ。話を聞けば聞くほど、このローテク男はズルい。一番は、自分がイケてることに気づいていないことだ。通常このルックスなら、チヤホヤされて勘違いするところだろうが、聞くところによると中学まで全校生徒20人あまりの山村の学校に通っていたらしく、さっぱり注目されることがなかったらしい。きらびやかな世界を知らずに育った天然素材が、初めて心ときめいた相手が、寄りにもよって百戦錬磨のモテ女・華代ってわけ。
「あんた、小細工してもたぶん無理だから。気持ちをそのまま書けばいいの」
「気持ちって?」
私は、ノートを取り出しサラサラと書くと、海聖に見せた。
『突然ですが、華代さん。私はあなたの見た目が好きです。こんなことをいうと、軽薄な奴だと思われるかもしれませんが、私は形ある物しか信じません。内面なんてどうでもいいのです。あなたがもし、わがままでどうしようもなく私を振り回したとしても、私はあなたの形のよい唇を眺めます。そうすれば、すべてを許せます。あなたがその美しい容姿を保ち続ける限り、私はあなたのしもべであり続けます』
海聖は、読むなり絶句し「これ、何?」と問うた。私は、言う。
「この手紙を渡したら、100%落ちるよ。だって、こんな事書く馬鹿いないもの」
「嫌だよ」
海聖はテーブルを叩き、詰め寄った。
「なんで? 答えられないなら教えてあげる。これが、あんたの本当の気持ちだからよ。上辺のきれいさに惹かれて近づいて、合わなかったらごめんなさいじゃ、華代がかわいそうだよ。当たって砕ける前に、どうして自分はこんな人間です。あなたを知りたいです、とぶつからないの!」
やってもうた。適当に流して金だけふんだくれば良かったのに。私は席を立ち、しょんぼりとした海聖を見つめた。自分がへこませたのに、ダメだ。傷ついたイケメンは最強にズルい。もう、止まらない。
「私はあなたを知りたい」
気づいたら、言ってたんだよね。
(了)