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第6回「小説でもどうぞ」佳作 ハローグッドバイ/橋本祐樹

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作文・エッセイ
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小説でもどうぞ
第6回結果発表
課 題

※応募数394編
「ハローグッドバイ」橋本祐樹
 ねえ、きみにこんな話をするのも変かもしれないけれど、少し僕の失恋話に付き合ってくれないか。
 僕はいまだに狐につままれた気分なのだけれど、思えば、彼女とのデートは最初から変わっていたんだ。
「最近、なにか気になっているものってありますか」
 結婚相談所で紹介された彼女と初めて会ったとき、僕がこう尋ねたのはもちろん、会話の糸口か、あわよくば次のデートのきっかけにしたいと思ってのことだった。
 でも、彼女の答えは僕の予想を裏切るものだった。
「最近、ことごとくついていないんです」と彼女は言った。財布を落としてしまった、周りの人から身に覚えのないことで責められる、なにもないところでつまずくことが増えた……。
 ネガティブな言葉のオンパレードに僕は面食らった。極めつけはこうだった。
「こういうのって、なにかよくないものが憑いていたりするんでしょうか」
 正直に言って、その時点で、彼女の話を丸ごと信じたわけじゃなかったし、おそらく、気のせいではないかと僕は思っていた。僕にはいわゆる霊感はなく、これまでの人生で霊に遭遇したり、霊を感じたりしたことはなかった。ただ、彼女があまりに真剣そのものだったから、軽く笑い飛ばしてしまうのも悪い気がしたんだ。
「きっと人より繊細で感受性が強いんだよ。でも、こういうのは、あまり気にしないほうがいいんじゃないかな」
 僕がそう言うと、彼女は泣きそうになって続けた。
「最近、注意しているつもりなのに、よく体のあちこちをぶつけ、いつのまにかあざや傷ができていることが増えたんです……。気のせいじゃないと思うんです」
 僕は困ってしまって、つい、こんなことを言ってしまったんだ。
「どうしても気になるのなら、どこか神社にお参りされてみたらどうでしょうか」
「今度、一緒に行ってくれませんか」
 こうして僕たちは付き合うことになったのだった。
 相談所の互いの担当者を通して正式に交際を開始してからも、彼女の心配事はやむことはなかった。
「このままだと、そばにいるあなたにまで危害が及ぶかもしれない」
 彼女は真剣な面持ちでそう言った。
「来週の土曜日に、厄除けに強いという評判の人のところに、私と一緒に行ってくれませんか」
 そのときは、一緒に行くという約束をしたのだけれど、前日の夜になって気が進まなくなった僕は、急な仕事を理由に断ってしまったんだよ。断りの電話を入れた僕に、「そうですか、わかりました」と彼女は言って電話は切れたのだけれど、彼女は一人で行ったんだよね。当日の夜、改めて謝罪の電話をしたら、着信拒否をされていてとうとう通じなかった。
 翌日、結婚相談所の担当者から交際終了の電話がかかってきた。その理由について、彼女はこう話していたらしい。
「自分でもよく分からないんですけれど、まるで、憑き物が落ちたみたいに彼への興味がなくなったんです」
 正直なところ、僕はまだ信じがたいのだけれども、やっぱりそういうことになるのだろうか。
 ねえ、僕は彼女ではなくて、彼女に憑いていたきみに好かれていたんだろう? 壁が大きくきしむ音がした。きっと、これはきみからの返事なんだろう。
 僕も彼女の言っていた人のところへお祓いを受けに行こうかとも思ったが、もう彼女に連絡を取ることができないのが残念だ。
(了)