「ありがとう」を書いてた時に、しゃれで書きました。 小説ではないので、当然送らず。 「あなた、葉書出しておいたわよ」 「ああ」 「えっ、なに?」 「なにって? なに?」 「今なんて言ったの?」 「えっ、俺、なにか言った?」 「ああ、って聞こえたけど?」 「ああ、言ったかな?」 「私、あなたの葉書、出して来たのよね」 「ああ、そうだね」 「で、あなたは、今、なんて言ったの?」 「ああって、言ったかな?」 「おかしくない? ああっておかしくない?」 「ああ、そうか。わかった。ありがとお」 「ありがとう、でしょ」 「うん、ありがとお」 「ありがと『う』でしょ」 「ありがとお」 「おじゃない、う」 「ありがとー」 「のばさない!」 「しつこいな、何、怒ってんだよ」 「大体ね、あなたは感謝の心ってものがないのよ。何でもやってもらってあたり前って思ってない?」 「思ってないよ。そんなこと」 「じゃあ、ありがとうくらい、ちゃんと言いなさいよ」 「言ってるよ。ありがとおって」 「うだってば。おじゃ、気持ちが伝わらないでしょ?」 「うも、おも一緒だよ」 「あなた、むちゃくちゃね。ウの段も、オの段も一緒にしちゃ、日本語にならないでしょ」 「大阪では一緒なんだよ」 「嘘ばっかり。じゃあ、おおさかは、ううさかでもいいのね?」 「屁理屈いうな」 「どっちが屁理屈よ。もういい、わかった。別れる。たった今、別れる」 「えっ、なんだよ、急に」 「もういいの、わかったから。じゃあね」 「じゃあねって、そんな、早まるなよ」 「早まってないわよ。遅すぎたくらいよ」 「だって、たかが葉書一枚で、離婚はないだろ」 「葉書百枚ならいいの? あなた、ほんとなにもわかってないわね」 「悪かった、俺が悪かった。な、だからな」 「全然反省してない」 「反省してるって」 「してない」 「してるよ。ほんとしてる」 「だったら、態度で示しなさいよ」 「ああ、ありがと『う』か?」 「バカじゃないの。ありがとうは、感謝でしょ。謝るのは、ごめんなさいでしょ」 「お前、それっていいがかりじゃないか」 「お前って言わないで。いつも言ってるでしょ」 「あっ、それは俺が悪い。でも、キミ、それはいいがかりじゃないか?」 「君って気持ち悪い。ちゃんと名前で呼びなさいよ」 「だから、キミって言ってるじゃないか」 「君じゃないでしょ、希美でしょ?」 「はあ? どう違うんだよ?」 「ちがうでしょ? 君と希美は。イントネーションが全然違うの。あなたが言うと、一緒になるだけ。ほんとは、違うの」 「もう、何だかわかんないよ」 「わかんないよって。いつもみたいに、大阪弁でいいなさいよ」 「ああ、もうわからんわ。ごめんやで」 「ふざけてるの?」 「お前が言えって、ゆうたんやん」 「ゆうてないわ、そんなこと」 「ゆうたわ。大阪弁でゆえってゆうた」 「ほんま、はらたつわー。もうほんまに、離婚や」 「離婚? ほう、おもろいことゆうなあ」 「なにもおもろないわ」 「おもろいわい。結婚してって、ゆうたんは、誰や?」 「あんたやんか、あんたが泣いてたのむさかいに、結婚したったんやんか」 「あほか、そんなことゆうか」 「ゆうたわ。何べんもゆうたわ。しゃあなしに結婚したったのに、なんやのこれ?」 「なにがこれじゃ。それが夫に対する態度か」 「なにが、夫や。オットセイみたいな顔してから」 「ああ、ゆうたな。ゆうたらあかんこと、ゆうたな」 「なにがあかんのよ」 「顔のことゆうたら、あかんねんぞ」 「あほらし。オットセイにオットセイてゆうてなにがあかんの? ほんなら、だあれも動物園いかれへんやんか。あほちゃうか」 「ああ、ようわかった。おまえがそこまでゆうなら、離婚や。はよ出ていけ」 「なんであたしが出ていかなあかんの? あんたが出ていきや」 「なんでやねん、ここは俺の家や」 「あたしの家や。ここはあたしの名義で借りてるねんで」 「家賃はろうてるのは、俺や」 「すかたん。あんなやっすい給料で、なんで払えるねん。あたしのパートで、足してるから食べれてるねんで」 「ああさよか。そやな。どうせ俺は安月給や。わかったわい。出ていったるわい」 「そらええわ。さっさと出ていって」 「やいやい言わんでも、出ていくわい」 「ほな、さっさと行きや」 「行くわい。今から、行くわい」 「なんやの、あんた、泣いてんの?」 「泣いてるかい。情けないから、めえから汗が出てるんや」 「そんな、泣かんでもええやん。あたしもちょっと言い過ぎたわ」 「言い過ぎてない。ほんまのこっちゃ。俺は、あかんたれや。世話になったな、ほなさいなら」 「あんた、待ちや、そんな慌てんでもええよ。もう夜遅いし、明日でもええよ」 「あかん、そんなことしたら、また気が変わるし」 「ええって、な、もうええって。仲直りしよ」 「ほんまか? ほんまにもうええのか?」 「うん、もうええよ」 「ありがとお」 「ありがとう、やで」
karai