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陽心

お言葉に甘えさせて頂いて #第37回どうぞ落選供養 先日のパリ五輪と今を震撼させる事件に題材を得ました完璧な駄作を供養させて頂きます。 ✨✨ 課題:すごい 題名:やべえ ✨✨  一人暮らしの老婆が押入り強盗被害にあって、意識不明の重体で救急搬送された。 「夏休みでおばあちゃんの家に遊びに来て、川へ釣りに出かけていたんだ。スルメで釣ったザリガニを餌に鯉を釣っていたんだよ」第一発見者の中学生の孫は充血した目を擦り、赤くなった鼻を膨らませて興奮気味に話す。 「君のアリバイを訊いてるんじゃなくて、倒れているおばあちゃんを見つけたときのことを話して欲しいんだ」初老と若手の刑事二人が事情聴取を行っているのだが、なかなか要領を得ない。 「やべえ」 「えっ! なんだって?」 「今の声はこのオウムです。スケボー解説者の口癖をマネしているんだそうです」鳥籠がテレビの近くにぶら下がっているため、繰り返される言葉を覚えてしまうのだそうだ。他の競技で「すごい」という賞賛のどよめきが上がっても「やべえ」と言う。  オウムのお陰で場が和んだせいで落ち着きを取り戻した少年の証言から、発見時の大まかな状況が把握できた。祖母が倒れているのを見つけたときには、既に加害者は立ち去ったあとだったようだ。老婆は鈍器のような物で頭部を殴られた痕跡があり、抵抗する間もなかったようで着衣の乱れはなかった。家には物色された跡があり、物取りの犯行とみられる。詳細なことは家の中を今這いずり回っている鑑識の報告待ちとなる。近所の家々は離れており、異常な声や物音を直接聞いた周辺住民は見つからなかった。 「やべえ」 「分かった、分かったよ」オウムが時折繰り返す言葉にうんざりだった。  担当医に直接病状を訊いた。病院へ向かうパトカーに少年を同乗させて、既に駆けつけていた両親の元に送り届けたあとのことだ。老婆は相変わらず眠ったままだった。 「家の前に駐車していたんですね」 「はい、白のライトバンです」  事件当時、被害者宅前を通りかかった運送業者のドライブレコーダより、不審車のナンバープレートから隣接する県で営業するレンタカー店が割り出された。  車を借りた見張役兼運搬役の中村守。宅配を装いインターフォンで呼び出しを行った一之瀬幹夫。隙をみてハンマーを振るった一之瀬は、相方の矢部光一の名を連呼して部屋の中を物色して回ったのだそうだ。矢部、やべえ、そういうことだったのか。 「主犯の指示役は犯行時刻にスマホのラインで逐一指示を出しており、実行犯三名は闇サイトで集められ、犯行当日に初顔合わせだったそうです。実はもう一名加わる筈だったのが、当日都合で参加できなかったようです」捜査会議にての報告だった。 「やべえ」 「だから、分かったって」  オウムは入院患者が意識を取り戻すきっかけになるかもしれないと病室で飼うことになったのだが、飼い主はとうとう帰らぬ人となった。そして巡り巡って刑事部屋に引き取ることになった。 「山さんも人が良いというか物好きなんだから」大先輩の山本警部補をおちょくる中村巡査長。二人は強盗事件ではバディを組んでいた。オウムを病室で飼う際は医院長の特別許可が必要だったが、警察署内で飼うのはもっと難関だったはずだ。 「しょうがねえだろ。今の家じゃ、ペット飼えねえから預かってくれって涙目で頼まれちゃったし。たらい回しにされるのは他人事とは思えねえからな」 「しかし、先輩、よく署長の許可をもらえましたね」 「公私共にいろいろ貸しがあってね。まあ、その話は追い追いな。ルビーと名乗る指示役はどこに隠れていやがるんだ」 「捜査線上に姿を全く見せないのは海外潜伏という線が濃厚なようです」 「俺のパスポート切れちゃってるかな」 「犯人引渡しの際には先輩が渡航するんですか」 「そういう可能性もあるだろよ」 「では、自分もお供します」 「連れてけ」 「あれ? こいつ、初めて違う言葉をしゃべった」 「洞窟捜査にカナリヤが役に立つとか言うけど、海外捜査にオウムが役立つかいな?」  犯行に加わるはずだったという男が判明した。長谷川隆。ヤサを見つけて署まで任意同行した。 「おまえが闇サイトで知り合った、中村、一之瀬、矢部を誘ったそうじゃないか」聴取にあたるのは山本警部補。中村巡査長は書記を務めた。 「みんな、お金に困っているようだったからさ」 「なんで犯行当日、加わらなかったんだ?」 「食あたりでトイレから離れられなかったの!」 「やべえ」 「なんで、ここにオウムがいるんだよ」 「気にすんな。遺族だよ」 「ちぇっ。任意の取り調べなんだから、今日中に帰してくれよな」 「連れてけ、ルビー」 「うるせえよ、このオウム」 「おまえ、いま動揺しただろ。図星だな。連絡手段はラインだったよな。スマホ見せてくれないか」 「いやだよ。個人情報だぜ」  長谷川はラインアドレスを複数所持していた。一つは勧誘役、もう一つは指示役ルビーだった。 「なんでルビーなんて言葉を知ってたんですかね。さては山さんが教え込みましたね」 「仇うった、このオウムはすごいよ。そういえば、オウムの名前をまだ訊いてなかったな」 「やべえ」 (了)

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