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齊藤 想

自分もちょっと落選供養に出してみます。 ストレートすぎたかなあと反省です。 #第38回どうぞ落選供養 『サプライズ・ショー』 齊藤 想  売れないピン芸人のビッグ師恩にとって、インターネットTVとはいえ番組出演は人生最大のチャンスだった。  この番組で人気が出れば、地上波への進出も夢ではない。  番組名は『サプライズ・ショー』。予想外の人物との再会がコンセプトだ。  この手の番組はお涙頂戴ものに仕上げるのが普通だが、『サプライズ・ショー』は極めて趣味が悪い。  登場するのが「浮気がバレて喧嘩別れした元彼女」とか「借金してから顔を合わせないようにしている元親友」とか、自分にとって都合の悪い相手ばかりだ。  だから出演希望者が少なく、売れないピン芸人であるビック師恩にまで声がかかったのだ。  どんな相手であれ、いかに笑いに昇華させられるか。そこにビック師恩の手腕が掛かっている。  オープニング音楽とともに司会者が登場する。手慣れたトークを挟み、ゲストであるビック師恩が紹介される。  ビック師恩はさっそく持ちネタの「ビックビックのビックリ師恩です!」を披露するが会場に笑いはひとつもおきない。  まあ、オンエア時には笑い声が被せられるだろう。ここでくじけてはいけない。なにしろ、人生一度の大チャンスなのだ。  司会者がマイクを握りなおす。 「さあ、本日のサプライズさんの紹介です。まずはシルエットからどうぞ」  スクリーンにシルエットが映し出される。ロングスカートに、ポニーテール。若い女性だろうか。 「分かったぞ。こいつはスレンダー圭子や。駆け出しのときには、スレンダー圭子と”ガリ&デブ”というコンビを組んどったんや。圭子が大食い役でおれが小食役だったけど、圭子はいまでもスイカの早食いはできるか?」  ビック師恩は大げさな動作でスイカの早食いのマネをするが、観客席は静まり返ったままだ。どうも調子がでない。 「さあ、正解でしょうか」  司会者がスクリーンにマイクを向ける。スクリーンの女性は、合成音で答える。 「違います。私はスレンダー圭子ではありません」 「おっと違いました。ここでヒントを伝えます。ビック師恩さんが芸能入りする前の知り合いです」  ビック師恩は少し考えた。どうも滑りっぱなしだ。ここで一発逆転を狙わなければ。ビック師恩は声を張り上げた。 「今度こそ分かったぞ。高校時代の英語の担任教師、熟年ミニスカ先生だろ」  また会場は静まり返る。そもそもシルエットはロングスカートだ。ビック師恩はとんでもなく滑ったことを自覚せざるを得ない。  司会者は義務的にスクリーンへマイクを向ける。もちろん違いますとの合成音が返ってくる。 「こうなったら特大ヒントです。どうぞ!」  スクリーンの女性は、シルエットのまま手紙を取り出した。 「このラブレターに記憶はありませんか?」  ビック師恩は息をのんだ。  今度こそ間違いない。彼女は、中学生時代にビック師恩が思い焦がれていた同級生だ。  ある日の学校からの帰り道。彼女がひとりになったときを見計らって、ラブレターを渡したことがある。  しかし、彼女はビック師恩のことをせせら笑った。手紙を読むどころか、まるで汚らわしいものを手にしてしまったかのように、手紙を投げすてた。 「ちょっと、酷いじゃないかよ」  ビック師恩は怒り半分、冗談半分で彼女の肩を押した。彼女は自転車に乗っていた。自転車がよろけて、しかもビック師恩から離れようと無理に漕いだものだから、車道側へと倒れた。 「あ、あぶない!」  自転車を引き留める時間も余裕もなかった。彼女の姿と自転車は、黒煙をまき散らすダンプトラックの彼方に消え去った。  どうしたらいいのか分からず、ビック師恩は逃げ出した。翌日、彼女の死が学校から伝えられた。ビック師恩が事故の原因であることは、警察にはバレなかった。  彼女は死んだはず。なのに、シルエットは明らかに彼女だった。 「どうです、まだ思い出せませんか?」  司会者がビック師恩に迫る。この状況で何か面白いことを言わなくてはならない。お笑い芸人とは、こんなに辛い仕事なのか。 「そ……その……ビック、ビックのビックリ師恩です!」  会場には白けを通り越して、呆れた空気が流れる。  司会者も限界を感じたようだ。 「正解にたどり着かないようなので、本日のサプライズさんに登場してもらいましょう。 どうぞ!」  さっと、スクリーンが取り払われた。ビック師恩は唖然とした。そこには、見たことのない女性がいる。  彼女が自己紹介をする。 「私はあのときのトラックの運転手です」  あまりの意外さに、ビック師恩は声もでなかった。 「私は事故現場で師恩さんの手紙を拾いました。未来のある青年と思い、それを警察に届けませんでした。私はひとりで彼女の家族への贖罪を続けました。交通刑務所にも入りました。仕事も家族も失いました。ひたすら贖罪を続けて、ようやく彼女の両親にも許されました。ところで、ビック師恩さんはお笑い芸人をされているぐらいですから、彼女の家族への贖罪は済んだのでしょうか?」  ビック師恩はうなだれるしかなかった。お笑い芸人どころか人間失格だと自覚した。

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