第38回の結果発表が出たということは、もちろん今回も開催します!! ✨✨✨✨✨✨ #第38回どうぞ落選供養 ✨✨✨✨✨✨ 既に投稿してくださっている皆さん、ありがとうございます! 今回のテーマ、「サプライズ!」は少し難しかったかも? でも、落選したからと言ってその作品に価値がないわけではありません! 「第38回小説でもどうぞ」にご応募いただいた作品 今回こだわった部分や、思い入れのある一文 などを、こちらのハッシュタグをつけて投稿してください! みなさまの大切な創作にかける思いを共有しあえたらと思っています。今回参加されなかった方も、今後の創作活動に向けて意見交換や刺激をもらえる場としてぜひご活用ください。 「小説でもどうぞ」をいっしょに盛り上げていきましょう💁♂️ #小説でもどうぞ https://koubo.jp/article/32044
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- karai
小どぞの落選供養が続々と。では、私も恥ずかしながら… #第38回どうぞ落選供養 テーマ〈サプライズ〉 【バツイチ限定合コン】 職場の知人Sが主催した「バツイチ限定合コン」での話である。 丸いテーブルを囲んでいるのは、私を含め、男性三人、女性四人。 私と知人のS以外は、皆、初対面。Sがネットで集めたメンバーだった。本当は、男性がもう一人参加する予定であったが、何かの都合で遅れていて、今になっても現れないので、おそらくもう来ないと思われた。 進行役のSの段取りがよく、楽しい時間が過ごせていた。 自己紹介から始まり、いくつかのゲームをして、皆、打ち解けたところで、私たちは「人生で経験した驚くべき話」というお題で一人ずつ話をすることになった。話す順番はくじで決めた。 「最後は私ですね」私は皆の顔を見渡してから、おもむろに話始めた。 「実は、私がこの話をするのは、今回が初めてです。出来れば、封印してしまいたい話なのですが、皆さんのお話を聞いていて、何故かお話ししたくなりました。思い出しながらの話になりますから、たどたどしくなるかもしれませんが、ご容赦ください。すべて本当のことです」私がそう切り出すと、皆の興味深そうな視線が私に集まった。 「もう十年以上前の話です。私は当時働いていた職場で、ある資格試験を受けることになり、受験者向けの講習会に参加しました。そこには、同じ業界の人間が一堂に集まっていました。四日間の講習中に、私は一人の男と知り合いました。初日にたまたま隣の席になったのが縁です。同業他社の社員で、Mと言います。Mと私は、講習会の四日間、共に学びました。講習会が終わって、二週間後が受験日であったと思います。その間の土日、私たちは、一緒に勉強をする約束をしました。同い年であることもあり、私たちは気が合ったのです。Mの好意で、私がMの自宅へ伺うことになりました。 土日の二日間、一緒に勉強をし、日曜日の午後には、二人とも合格間違いないと自信を持って勉強を終えました。そしてその日、Mの奥さんの好意で、夕食をいただくことになりました。奥さんが、夕食の支度をする中、私とMはとりとめもない話をしていました。 そんな中、Mが奥さんに声を掛けました。「いずみ」と。私は驚きました。私の妻の名も同じ「いずみ」でしたから。私たちは、奇遇ですねと笑い合いました。ですが、笑っていられたのは、それまででした。話の流れで、結婚記念日が、二十三歳の七月十五日。全く同じだとわかったのです。偶然の一致は、それだけではありません。私たちには、互いに一人娘がいました。名を「沙也加」と言います。娘の名前が同じだとわかった時には、もう奥さんは夕食の支度を中断してしまいました。私たちは、驚きを通り越して怖くなったのです。Mが告げた娘の誕生日も、私の娘と同じでしたが、私はわざと『誕生日は違う』と言いました。Mも奥さんも、ほっとした様子でした。奥さんが気を取り直したように夕食の支度を再開し、私たちは努めて和やかに食事をしました。 食事中、私たちは、互いの共通点を探すような話題は、避けました。暗黙の了解でした。 食事が終わって、お暇をしようとした時、Mが受験票の書き方で、私に質問をしてきました。私は、書き方を教えるために、Mの受験票を見て、愕然としました。そこに書かれていたMの生年月日は、私と全く同じだったのです。私の様子がおかしいことに気づいたMに『どうかしたのか』と問われた私は、黙って自分の受験票をMに差し出しました。それを見たMが『誕生日が同じだ』と声を震わせました。その時、私の背後で『ガチャン』と大きな音がしました。流し台の前にいた奥さんが、手にしていた皿を落としたのです。奥さんは、そのままゆっくりと床に座り込み、立てなくなりました。 幸いにして、奥さんに大事はなく、私はそそくさとMのお宅を辞しました。そして、その後、資格試験の当日も、またそれ以降も、私たちは二度と連絡を取り合うことをしませんでした。試験会場にMが来ていたことは知っていました。Mも私のことに気が付いたはずですが、声を掛けてくることはありませんでした。そして、それきり彼とは会っておりません。世の中には、信じられないほどの偶然があるものです」 私が話を終えると、その場の空気が凍り付いていた。女性陣は、両腕を抱くようにして鳥肌だった腕をさすった。 その時、個室のドアが開いて、一人の男が入ってきた。 「申し訳ありません。仕事の都合で、大変遅くなりました」男はそう言うと頭を下げた。 「ああ、お待ちしておりました」Sがそう言った。 「どうして?」私がそう言うと、私に気づいたMも驚いたように目を見開いていた。 「二年前に離婚したんだよ」そう言うMに私は、問いかけた。 「まさか、二年前の結婚記念日か?」Mが黙って頷き、私はあまりのことに言葉を失った。 せっかく主催してくれたSには申し訳なかったが、その日の合コンは、誰一人、二次会に参加するものがなく、連絡先の交換をすることもなく、解散となった。
- みぞれ
#第38回どうぞ落選供養 応募した掌編の内容が、先月ほとんど現実化するという、紛れもないサプライズがおきました😦 『とある職場の昼休み』 地球の裏側にまで届きそうな溜息が漏れた。今日は、俺の誕生日だ。俺は、ゴールデンウィークの祝日に生まれた。社会人になるまで、毎年、誕生日を楽しく過ごしてきた。 だが、今、俺は、職場のデスクの席から動けずにいる。俺が監査法人に入社してから、五年が経った。社会人になってから、対面で誕生日を祝われた経験はない。 一年間で飛躍的な成長を求められる職場で、がむしゃらに働き続けた。その結果、気付けば、同期の中で最も高い評価を受けるようになった。 非常に喜ばしいことだ。だが、誕生日を祝っては貰えない。疲弊した俺は、些細な物事ですら、苛立ちを覚えた。 周囲を見渡した。最繁忙期を迎えたゴールデンウィークの今日、公認会計士たちは、殺気を隠さずに、仕事をしていた。 視界の隅に大きな窓があった。普段はスーツ姿の社会人が溢れている大手町は、閑散とし、皆から忘れ去られた地となっていた。 目の前のパソコン画面に視線を戻した。喉の奥から唸り声が出た。 評価と共に、仕事の難易度は上がった。自分に割り当てられた作業は、全て難易度が高い。まだ片付けられていない作業が、山ほどある。 チームリーダーの大島さんから怒られないだろうか。大島さんから叱責される未来を思い浮かべると、偏頭痛がした。 パソコン画面に影が落ちた。振り返ると、大島さんが、俺のパソコン画面を覗き込んでいた。 「市川君、十二時になったら、会議室Bに来てくれるか。話したいことがあるんだ」 真顔の大島さんは、単調な口調で、俺に要件のみを伝えると、立ち去って行った。 十二時から十三時は、昼休みだ。俺は、昼休みに呼び出しを食らい、激怒されるのだろうか。しかも、会議室Bは、十人を収容できる広い会議室だ。俺は、皆の前で公開処刑されるのだろうか。嫌な予感が膨らんでいった。 十一時五十八分になると、のろのろと会議室Bに向かった。会議室Bに近付くと、会議室Bのスモークガラスの壁越しに、多くの人影が見えた。 今から逃げ出そうか。会議室Bに背を向けようとした瞬間、ドアが開く音がした。 大島さんが、会議室Bの入口で、厳しい表情を浮かべて立っていた。 「着いていたんだったら、とっとと中に入れ」 大島さんの後ろ姿に続き、恐る恐る会議室Bに足を踏み入れた。 突然、大きな物音がした。火薬の匂いが薄っすらとした。様々な色のカラーテープが、会議室Bの中を飛び交った。 チームメンバーがクラッカーを構えていた。会議室Bのテーブルには、ホールケーキが置かれていた。 「市川さん、お誕生日おめでとうございます!」 「大島さん、バレずに済んで、良かったね。普段は、顔に言いたいことが滲み出るのに」 チームメンバーたちの大声に交じり、耳に心地よい低音が聞こえた。 心臓が跳ね上がった。管理職のマネジャーが、会議室Bの奥で、微笑んでいた。 社会人になってから、初めて、楽しい誕生日の時間を過ごした。チームメンバーたちとくだらない話で盛り上がり、ケーキを口いっぱいに頬張った。 楽しい時間は、大島さんの重々しい声で、終わりを告げた。 「ケーキも食べ終わったようだし、市川君の緊張も緩んだだろう。市川君以外は、退室してもらおうか。市川君と大切な話があるからな」 チームメンバーたちが、会議室Bを去って行った。チームメンバーたちの目には、同情が宿っていた。 最後の一人が、会議室Bのドアを閉めた。マネジャーとチームリーダーを前に、張り詰めた空気が漂った。大島さんが、おもむろにパソコンを取り出した。チームメンバー全員の作業の進捗が、パソコン画面に映し出されていた。 「市川君の今の進捗だが、大幅に遅れている。他のチームメンバーに市川君の作業を手伝ってもらおうかとも考えたが、市川君と同等の能力を持つメンバーが他にいない。市川君に頑張ってもらうしかないんだ」 予想していた通りの言葉が、大島さんの口から垂れ流されていった。テーブルの隅を見ながら、「申し訳ございません」と、蚊の鳴くような声で繰り返し言った。 「最後に、最も大切な話がある。市川君への誕生日プレゼントについてだ」 視線をテーブルの隅から大島さんに移した。 マネジャーとチームリーダーが、揃って穏やかな笑みを浮かべていた。マネジャーが、天気の話をするように、ゆったりと語り始めた。 「大島君はね、繁忙期が終わったら、退職して独立するんだ。新天地での大島君の活躍を祈るよ」 マネジャーは、自慢の息子を見るような目付きで、大島さんを見た。大島さんは、照れ臭そうに、鼻の頭を掻いていた。 「待って下さい。大島さんがいなくなったら、俺たちは、どうなるんですか! 次のチームリーダーは、誰になるんですか!」 にこやかに笑い合っている場合では、ないだろう? 俺たちは、今後、どうしたら良いんだ? 今度は、大島さんが、自慢の息子を見るような目付きで、俺を見た。 「次のチームリーダーは、市川君だ。チームリーダーを経験して、初めて一通りの業務を経験したと言える。俺からの誕生日プレゼントだ」 「何か起きればフォローするから、安心しろ」 マネジャーの柔らかな声が、遠く聞こえた。歓喜と絶望が、胸の内に押し寄せた。 誕生日プレゼントの規模が、大き過ぎる。俺は、喜んだほうが、良いのだろうか。嘆いたほうが、良いのか。絶叫したほうが、良いのだろうか。 半ば大任を押し付けられた俺の前で、マネジャーとチームリーダーは、のんきに笑い合っていた。(了)
- 齊藤 想
自分もちょっと落選供養に出してみます。 ストレートすぎたかなあと反省です。 #第38回どうぞ落選供養 『サプライズ・ショー』 齊藤 想 売れないピン芸人のビッグ師恩にとって、インターネットTVとはいえ番組出演は人生最大のチャンスだった。 この番組で人気が出れば、地上波への進出も夢ではない。 番組名は『サプライズ・ショー』。予想外の人物との再会がコンセプトだ。 この手の番組はお涙頂戴ものに仕上げるのが普通だが、『サプライズ・ショー』は極めて趣味が悪い。 登場するのが「浮気がバレて喧嘩別れした元彼女」とか「借金してから顔を合わせないようにしている元親友」とか、自分にとって都合の悪い相手ばかりだ。 だから出演希望者が少なく、売れないピン芸人であるビック師恩にまで声がかかったのだ。 どんな相手であれ、いかに笑いに昇華させられるか。そこにビック師恩の手腕が掛かっている。 オープニング音楽とともに司会者が登場する。手慣れたトークを挟み、ゲストであるビック師恩が紹介される。 ビック師恩はさっそく持ちネタの「ビックビックのビックリ師恩です!」を披露するが会場に笑いはひとつもおきない。 まあ、オンエア時には笑い声が被せられるだろう。ここでくじけてはいけない。なにしろ、人生一度の大チャンスなのだ。 司会者がマイクを握りなおす。 「さあ、本日のサプライズさんの紹介です。まずはシルエットからどうぞ」 スクリーンにシルエットが映し出される。ロングスカートに、ポニーテール。若い女性だろうか。 「分かったぞ。こいつはスレンダー圭子や。駆け出しのときには、スレンダー圭子と”ガリ&デブ”というコンビを組んどったんや。圭子が大食い役でおれが小食役だったけど、圭子はいまでもスイカの早食いはできるか?」 ビック師恩は大げさな動作でスイカの早食いのマネをするが、観客席は静まり返ったままだ。どうも調子がでない。 「さあ、正解でしょうか」 司会者がスクリーンにマイクを向ける。スクリーンの女性は、合成音で答える。 「違います。私はスレンダー圭子ではありません」 「おっと違いました。ここでヒントを伝えます。ビック師恩さんが芸能入りする前の知り合いです」 ビック師恩は少し考えた。どうも滑りっぱなしだ。ここで一発逆転を狙わなければ。ビック師恩は声を張り上げた。 「今度こそ分かったぞ。高校時代の英語の担任教師、熟年ミニスカ先生だろ」 また会場は静まり返る。そもそもシルエットはロングスカートだ。ビック師恩はとんでもなく滑ったことを自覚せざるを得ない。 司会者は義務的にスクリーンへマイクを向ける。もちろん違いますとの合成音が返ってくる。 「こうなったら特大ヒントです。どうぞ!」 スクリーンの女性は、シルエットのまま手紙を取り出した。 「このラブレターに記憶はありませんか?」 ビック師恩は息をのんだ。 今度こそ間違いない。彼女は、中学生時代にビック師恩が思い焦がれていた同級生だ。 ある日の学校からの帰り道。彼女がひとりになったときを見計らって、ラブレターを渡したことがある。 しかし、彼女はビック師恩のことをせせら笑った。手紙を読むどころか、まるで汚らわしいものを手にしてしまったかのように、手紙を投げすてた。 「ちょっと、酷いじゃないかよ」 ビック師恩は怒り半分、冗談半分で彼女の肩を押した。彼女は自転車に乗っていた。自転車がよろけて、しかもビック師恩から離れようと無理に漕いだものだから、車道側へと倒れた。 「あ、あぶない!」 自転車を引き留める時間も余裕もなかった。彼女の姿と自転車は、黒煙をまき散らすダンプトラックの彼方に消え去った。 どうしたらいいのか分からず、ビック師恩は逃げ出した。翌日、彼女の死が学校から伝えられた。ビック師恩が事故の原因であることは、警察にはバレなかった。 彼女は死んだはず。なのに、シルエットは明らかに彼女だった。 「どうです、まだ思い出せませんか?」 司会者がビック師恩に迫る。この状況で何か面白いことを言わなくてはならない。お笑い芸人とは、こんなに辛い仕事なのか。 「そ……その……ビック、ビックのビックリ師恩です!」 会場には白けを通り越して、呆れた空気が流れる。 司会者も限界を感じたようだ。 「正解にたどり着かないようなので、本日のサプライズさんに登場してもらいましょう。 どうぞ!」 さっと、スクリーンが取り払われた。ビック師恩は唖然とした。そこには、見たことのない女性がいる。 彼女が自己紹介をする。 「私はあのときのトラックの運転手です」 あまりの意外さに、ビック師恩は声もでなかった。 「私は事故現場で師恩さんの手紙を拾いました。未来のある青年と思い、それを警察に届けませんでした。私はひとりで彼女の家族への贖罪を続けました。交通刑務所にも入りました。仕事も家族も失いました。ひたすら贖罪を続けて、ようやく彼女の両親にも許されました。ところで、ビック師恩さんはお笑い芸人をされているぐらいですから、彼女の家族への贖罪は済んだのでしょうか?」 ビック師恩はうなだれるしかなかった。お笑い芸人どころか人間失格だと自覚した。
- はそやm
#第38回どうぞ落選供養 安定の落選ですが、やはり少しは悔しいです。 先月は投稿できずに終わったので今月からまた頑張ります! 「語り継がれるサプライズ人事」 サプライズ人事があると聞き、なんとなく空気が華やいだ。「どんなサプライズだろうね」「サプライズと言いながら普通の人事だったりして」「それ、夢なさすぎ」人事発表の時間だというのに部長が戻ってこないため社員達のザワつきは大きくなる。希望に胸膨らますもの、期待し過ぎてがっかりしないよう予防線を張るものでヒソヒソとした会話が続く。今日は人事発表だというのは会社が言っているのだから別に声をひそめずともいいのだが、なんとなく秘密めいた気持ちが伝染してヒソヒソ声になってしまう。「俺が突然、新プロジェクトのチームリーダーとか?」「それ、サプライズじゃなくて悪夢」緊張のあまり冗談を言った社員に対し冗談で返そうとしたが、そう取られず無言となってしまい気まずい雰囲気が流れる。他の社員が慌てて話をそらそうと、「普通の昇進じゃサプライズじゃないよな」「じゃあ昇進しようにない人が抜擢ってこと?」誰がなるのか予測してみようと話題を振ってみたが、最近の業績を振り返ってもマイナスばかりでサプライズで起用されるような人材を思いつかない。もし、平社員が突然役職をつけられてもサプライズとして喜ぶより責任の重さから罰ゲームと感じてしまいそうだ。人事発表を行う部長がなかなか現れないため、みんなの期待がだんだんと不安へと移行しかけたその時、部長がようやく表れた。「みんなお待たせ」ニコニコと笑顔の部長を見て悪い話ではなさそうだと、みんながホッとする。「新しい人事を発表します」と言う部長の周りに社員が集まった。部長の表情からして悪い人事ではなさそうだと判断し、サプライズを聞き逃すまいとの気持ちから集まったのだが。その場にいた一同が部長に違和感を感じる。なぜか部長は両手を前に突き出し、握りしめたままの状態で立っていたからだ。いや、握りしめるというよりふんわりと両手で包んでいるといったほうが相応しいか。「部長?」近くの社員が声をかける。「ん?」「手の中になにか入っているんですか?」あはは、勘がいいねと笑いながら部長は両手を開いた。そこには小さな人形がちんまりと座っていた。「に……んぎょう?」部長はかなり男らしい見た目で人形を手の中に隠し持つタイプではない。部長と人形、あまりにかけ離れた取り合わせに一同驚く。「人形じゃないよ、こ・び・と」部長が当たり前のように言うので、ご冗談をと言おうとしたのだが人形が立ち上がったので数人がギャッと叫ぶ。「勝手に人形が動いた!」「人形じゃないよ、こびとだよ」部長がそう紹介すると人形、いやこびとが周囲を見回してからペコリと頭を下げた。「新しいプロジェクトのリーダーとなった、こびとです」「しゃ、しゃべった!」「しゃべるよ!こびとだもの」あはははと笑う部長を社員達は気味悪げに見つめる。「しょうがないよね、私も最初は社長室で君達と同じような反応をしたもの」部長も社長室でこびとを紹介された時は驚きのあまり腰を抜かしそうになったそうだ。社長の手のひらで動くこびとを現実のものとして受け入れられなかったのだという。しかし、健気に部長に向かって挨拶をするこびとを見ているうちに、「可愛さが増してきちゃってさ」とろけるような顔で部長は話す。「社長と二人しばらくこびとさんに見惚れてしまったのだよ」「だから人事発表が遅れたんですね……って、こびとが新プロジェクトのチームリーダーってどういうことですか!」「そのままの意味だよ」手のひらの上のこびとをなでながらとろけそうな顔で部長は答える。「こびとが新プロジェクトのチームリーダーって……」強硬に反対しようとした社員は文句を続けようとしたのだが、こびとを見た瞬間、力が抜けた。そして、思わずこびとにかけより人差し指でちょいちょいとこびとの頬を撫でた。「明日からチームリーダーとして一生懸命がんばります。みなさんよろしくお願いします」指先でなでられ、くすぐったそうにしているこびとが真面目な表情で就任のあいさつを述べる。プチプチプチ。その場にいた全ての社員の理性が切れ、こびとに殺到した。順番に優しくなでられながら、こびとは共に働きましょうと挨拶をしている。その健気な姿を見て部長はキュンとしながら、このサプライズは成功したと満足そうにうなずいた。「おお~い!私にもう一回なでさせてくれないか?」「どうだね、新しいチームリーダーは?」「社長のお考え通り、こびとさんを中心に結束力が高まり素晴らしい成果をおさめそうです」「そうか」こびとの可愛さを十二分に活かした新プロジェクトは大成功となりサプライズ人事のお手本として語り継がれた。
- 陽心への返信陽心
勝手に恥じめます。 #第38回どうぞ落選供養 サプライズ! SM警察署 部屋のドアをノックしようとして呻き声を聞いた。急いでドアを開けると、白いブリーフ姿で四つん這いの肥え太った男の尻に、黒いボンテージレザースーツをまとった女が騎手用の鞭を当てていた。 「タイミング良いわね。そこのカバンに入ったローソクに火をつけて持ってきて」こちらを振り向いたどぎつい化粧の女が言った。 僕が人差し指で自分を指差すと、「他に誰がいるの」と言われた。 SMショーが終わって自己紹介をした。 「本日着任した飛土田孝警視正です」 「新任署長をお迎えに上がれず申し訳ございませんでした。副署長の鈴木和夫警視です」 「総務課長の佐藤渚警部です」 二人とも制服に着替えて、千駄森町警察署内を最上階から案内してもらった。 「署員への正式なご挨拶は、午後の全体朝礼にて宜しくお願い致します」午後なのに朝礼なの? というツッコミは、とりあえず控えた。地下の留置場に降りる階段入口手前で急用を思い出したと言って、副署長と総務課長は去ってしまった。 「ここからは自分がご案内申し上げます。留置管理課の小森優香巡査です」と敬礼して引き継いだのは背の高い若い警察官だった。 「本日付で署長に着任した飛土田孝警視正です」 「さて、ここで問題です。悪魔は手の内をそう易々とは明かさないものですが、署長ならどうしますか?」 「えっ、いきなり何ですか!」僕がうろたえていると、彼女はチッチッチッチとストップウォッチのようなカウントを始めた。 真剣に考えていると、彼女は「会えば分かります」と呟きながら階段をそそくさと下って行ってしまい、慌ててあとを追った。 薄暗い牢屋の中で小振りな木製の椅子に腰掛けた老人が目を閉じたまま微笑んだ。 「SM警察署へようこそ。初めましてドクターレクタンです」 敬礼をして小森巡査が去って行く。 「あっちょっと」との呼びかけは無視されたので仕方なく、「いや、こちらこそ初めまして、新任署長の飛土田(ひつちだ)です」と老人に向かって挨拶した。 「悪魔は手の内を明かさないものです。署長ならどうされますか?」 「それはさっきの……」咳払いでごまかして、「レクタン博士は何をされて、いつからこちらへ」と逆に尋ねた。 「震災からかれこれ百年になります」 「えっ、今何と」 「関東大震災を起こした容疑で捕まりました」 「?」 「ナマズではありませんよ。悪魔です」老人が目を開いた。 視界が歪み、地が揺れ、ふらついてつかまろうとした鉄格子が消えていた。 「羊ちゃん、沈黙しないで数えてね」彼は黒い狼になっていた。そこは羊を放牧する草原だった。 「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、……」僕は子供になって羊を数えながら垣根の囲いの中に追いやって扉を閉じた。 羊を襲うのを諦めた狼は牙をむいて、僕の方を追いかけてきた。僕は垣根の周りを走り回った。そして背負っていた白い大きな殻の中へ逃げ込んだ。 「デンデンムシムシ、カタツムリ。おまえのアタマはどこにある?」 「ツノだせ、ヤリだせ、アタマだせ」僕は頭を覗かせた。いつの間にか木の上にいた。 狼は毛虫になって木を這い上がってきて途中で固まり、蛹を破って黒い蛾になった。それから飛んできて殻にとまったので、首を引っ込めた。 「隠れたってだめだよ坊や」悪魔の声だった。僕が隠れた殻を羽で叩いて、黒い粉が舞ったので、思わず咳き込んでしまった。蛾は履いていたハイヒールの尖った踵で殻を蹴破った。宙に現れた火のついたロウソクが傾き、溶けたロウが滴り落ちてきた。 「おぎゃー」熱さに堪らなくなって殻から飛び出た。僕は縮んだ殻のおむつを履く赤ん坊になった。 「ねんねんころりよ」僕は転がされて木から池に落ちた。オタマジャクシになって、脱げて池に漂う殻に向かって泳いだ。 殻を履くと、再び赤ん坊になって少年になって青年になって大人に戻った。 気付くと牢屋の前にいた。びしょ濡れだった。 「お帰り、羊ちゃん。風邪ひかないようにね」鉄格子を挟んで椅子に座ったままの老人は目を閉じた。 手摺につかまり階段を上がったあと、エレベータで最上階まで昇った。 大会議室には署員が集まっていた。 敬礼で迎えられ、よろめきながら壇上へ上がった。挨拶しようとしたらクシャミが出た。紐が目の前に降りて来た。天井に吊るされたクス玉の紐だ。署員たちが注目している。何の演出か分からないが、思い切って紐を引っ張った。 突然、床が抜けて、螺旋状に回る滑り台を階下へと滑り落ちて行った。僕の悲鳴が尾を引いた。止まった時には、留置場の中の木製の椅子に腰掛けていた。手足は拘束ベルトで椅子に固定されて立ち上がれない。 牢の扉が開放され、黒いボンテージレザースーツをまとった若い女が入ってきた。踵の高いハイヒールを履いた小森優香巡査だった。濃い紫のアイシャドウ、真っ赤な唇が艶めかしい。右手に大きめな特殊警棒、左手に火のついたロウソクを手にしている。 「驚かそうとしたって、手の内は見えているぞ!」 彼女は椅子のうしろに回り込むと何やらごそごそと。特殊警棒を背中に括りつけたようだ。ロウソクの炎で点火した。これってロケット?と気付いたときには、落ちて来た螺旋状の滑り台をもの凄い勢いで遡っていた。 署員の待つ大会議室に飛び出てクス玉に頭をぶつけた。 玉が割れて「ウェルカム飛土田孝警視正」の垂れ幕と金紙が舞い、会場が拍手で沸いた。 (了)