僕らは夢の配達コンビ
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僕らは
夢の配達コンビ
とらいし かなえ
乾燥しきったサバンナに一頭のシマウマがいた。名前はテトラス。彼は群れのリーダーとしてなんとしても水を探さなくてはならなかった。
しかし、歩けど歩けど水は一滴も見つからない。
満月の夜、テトラスは神様に祈った。
「どうか私たちを助けてください」
すると翌日、テトラスの背中に白い翼が生えていた。テトラスは感謝し、喜んだ。
全速力で地を駆けると力強く羽ばたく。
身体がフワリと浮いてテトラスは自由に空を飛びまわった。なんと、はるか東に水辺が見えるではないか。
すぐさま、群れに知らせに戻った。
「東に水辺があるぞ!」
ところが、群れの仲間は翼の生えたテトラスを見て怖がり、皆、東に逃げてしまった。
ポツンと一人ぼっちになったテトラスは寂しくて泣いた。
「なぜ、泣いているの?」
テトラスが顔を上げると、まっ白なペガサスが一頭、天から降りてくるのが見えた。
「群れから仲間はずれにされたんだよう」
テトラスは大粒の涙をボロボロこぼした。
「私はミーシャン。天の使いよ。さあ、泣きやんで。あなたを見習いとして仲間に加えましょう。あなたは立派に群れのリーダーとして役目を果たしたのだから」
テトラスは、やっと泣きやんだ。
「私についてきて」
二頭は、ぐんぐん空を昇ってペガサスの群れのいる雲の上までやってきた。
見るとそこには何本も立派な木が生えていて、虹色の実をたくさんつけている。
「私たちペガサスは人間の子どもたちに夢を与えるのが仕事なの。あの虹色の実が夢の源。その実を、寝ている子どもの枕元にそっと置くだけの簡単な仕事よ」
テトラスは、それなら自分にもできそうな気がしてきた。
「僕、やってみるよ」
テトラスは虹色の実を一個、口にくわえると、自分だけで地上へ降りた。
夜の大都会。その中の一軒の家に目を留めた。二階の窓が開いていたからだ。
難なく子ども部屋に入ったのは良かったが、もう深夜だというのに、その子はテレビゲームをしていて眠ってはいなかった。
「誰?」
そう言って振り返った子どもとテトラスの目が合った。
ビックリしてテトラスは口にくわえていた虹色の実を床に落としてしまった。
テトラスは急いで実を拾おうとしたが、一歩遅かった。
ヒョイパクッ。
バクが待ち伏せていて、落とした実を食べてしまったのだ。
「いやあ、おいしかった。おっと、人が来る」
バクはスーッと消えて見えなくなった。
でも、テトラスは姿のくらまし方なんて知るはずもなかった。
「翼の生えたシマウマだ! こいつぁ、高く売れるぞ」
恐怖で身体が動かない。テトラスは人間の大人たちに簡単に捕まってしまった。
革ひもで自由を奪われ、テトラスが泣いていると、一匹のネズミがやってきた。
「僕はフレディー。君を助けるよ」
「どうして? 僕は、仕事もできない、ただの落ちこぼれなのに……」
「僕もだよ。僕だけじゃ、なぁんにもできないんだ。他のネズミたちにも怖がられてさ」
フレディーの背中から小さな白い翼が、ひょっこり見えた。どうやら仲間のようだ。
フレディーは革ひもを食いちぎってテトラスを自由にした。
「僕たち、良いコンビになれると思うよ」
フレディーはテトラスの背中に飛び乗ってウィンクした。
「よし。もう一度やってみよう」
テトラスはフレディーを乗せて天に昇り、虹色の実をくわえると、今度は村に降りた。
そこには貧しくて住む場所がない子どもが一人、道端で眠っていた。
テトラスは今度こそ慎重に虹色の実を、その子の頭のそばに置いた。実は瞬く間に夢に変わっていった。
そこへ、またしても、バクが夢を食べようとやってきたので、フレディーがガブリとバクの鼻をかじった。
「うわぁ!」
バクは痛さで転げまわると逃げていった。
「ねっ。僕ら良いコンビでしょう?」
彼らはニッコリほほ笑み合った。
こうしてテトラスとフレディーは互いに助け合って、一人前の天の使いとなった。
今日も子どもたちに夢を与え続けている。