ローズのおむこさん
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ローズの
おむこさん
かく芙蓉
「わたし、おむこさんをもらいたいのです」
白ねこのローズが、とつぜん言いだした。ローズは、ぼくが小学校の入学式の帰りに、
ひろってきたメスの白ねこだ。すてられて、ないていたときは、まだ目もあいてない、小さな子ねこだった。それが、うちでくらすようになり、もう一年になる。
今のローズは、人間で言うところの、「けっこんてきれいき」ってやつみたいだ。
「どうしたらいい?」
ぼくは、パパとママ、そして、いそうろう中の、花ちゃんにそうだんした。
パパの妹の花ちゃんは、しごとのつごうで、少し前からいっしょにくらしている。
「アラサー」とよばれる年れいで、どくしんの花ちゃんも、ローズと同じ「けっこんてきれいき」だ。
「マーくん。ローズのおむこさんさがし、がんばるわよお!」
一番はり切っているのは、花ちゃんだ。
「よろしくおねがいします」
ローズは、まっ白な体をくにゃんと曲げて、おじぎした。
とりあえずは、リサーチから。花ちゃんが紙とペンをもって、ローズに聞く。
「ローズは、どんな男の人――人じゃない、ねこがいいの?」
「三さい以下の、太っていない方。顔は、かっこいいほうがいいです。できれば、けっとうしょつき。かみついたり、ひっかいたりしない方をきぼう」
ぼくは、あきれた。
「オッケー。ローズはまだわかくてかわいいから、多少のワガママはゆるされるわよ」
花ちゃんは、すんなりみとめた。
そして、花ちゃんは、ねこのお見合いサイト「ねこマリッジ」を見つけてきた。マリッジは「けっこん」って意味なんだって。
「いろんな子と会ってから、決めるものよ」
さすが花ちゃん、くわしい。
さいしょにお見合いしたのは、イケメンねこの、シュウ。ローズとシュウがけっこんしたら、かわいい赤ちゃんがうまれそう……。
と思ったけれど、うまくいかなかった。
「モテるみたいなの。わたし、遊ばれたくないわ」
ローズはそう言って、おことわりした。
次は、けっとうしょつきで、お金もちの家のねこ、リッチ。頭もいいみたい。
「地位もめいよもあるからって、とてもいばっているの」
と、ローズはこれもおことわり。
三番めは、イケメンじゃないけれど、とてもおだやかな、フク。こういう子とけっこんしたら、しあわせになれそうだ。
しかしローズは、
「やさしくて、いい方なんだけれど、いっしょにいても、つまらないの」
なんて、言っている。
ローズのおむこさんさがしは、ひとまず、とりやめ。
「ローズ、白馬の王子様を待っていたら、いつまでも、けっこんできないよ」
花ちゃんが、ローズにおせっきょうしている。パパとママが、よく花ちゃんに言っていることばだ。
「わたしには、心に決めたお方がいました。でも、その方とはむりなので、わすれるために、おむこさんをと思ったのです」
ローズが、目になみだをうかべて言った。
パパもママも、花ちゃんもぼくも、ポカン。
「だれ? じゃなくて、どこのねこ?」
身をのりだして聞くと、ローズの目がまっすぐにぼくを見た。
「えっ? えっ!」
「はじめて会ったときから、わたしをひろってくれたあの日から、わたしは、マーくんしか見ていません」
ローズは、悲しげな声で言うと、ソファーの下にかくれてしまった。
みんなが、ぼくをにらむ。
「マーくん。あんたは、ローズの白馬の王子様だったんだよ。わかってるの?」
花ちゃんが、遠い目をして言った。
その夜、ぼくはゆめを見た。白いドレスをきた、とてもきれいな女の子が、ぼくにやさしくほほえんでいる。
「マーくん。たとえむすばれなくても、わたしは、あなたのことが一生すきです」
さしだされた手を、にぎろうとしたとき、むねが、キュウッとくるしくなって、目がさめた。
ローズが、白い小さな体を丸めて、ぼくの上でねていた。
ぼくが、ローズのおむこさん?
それとも、白馬の王子様?
「えっと……。これからも、ずっといっしょにいようね」
小さな声で言うと、ねていたはずのローズは、ぼくにぴたっとだきついた。