新米怪盗と黒い桜石
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新米怪盗と
黒い桜石
三浦綸
ここは桜町の森の中。ライオンのルパンが、ジルという男の子を背中に乗せて、全速力で走っている。
「ここ超涼しいねー! 最高ー!」
「ぼくは、全然、涼しくないんだけど……。ジル、今何時?」
「十二時ちょうど。って、遅刻だー!」
森の中に突然、大きな建物が現れた。怪盗たちの秘密基地だ。二人が急いで中に入ると、
「ジル、ルパン、遅刻だぞ」
ソファに座っていたロボット職人のシャルルが振り返った。シャルルの肩には、相棒の鳩型ロボット、ピッポが止まっている。
「ごめん、急いだけど遅れちゃった」とジル。
「いや、急いだのはぼくだけなんだけど……」とルパン。
ルパンとジルが、シャルルの隣に座る。机をはさんで向かい側のソファには、みんなのボスで大怪盗のガウールが座っている。
「よし、みんな揃ったね。それじゃあ、発表するよ。君たちの初仕事の獲物は、これだ」
ボスが上着のポケットから懐中時計の写真を取り出し、机の上に置く。文字盤の周りにあしらわれた宝石が色とりどりに輝いている。
「うわあ、綺麗~。早速、予告状を書かないと!」ジルが言う。
「そんなことしたら、おれたち確実に捕まるぞ」
「シャルルの言う通りだ。今回はなるべく目立たずに盗んでほしい。というのも、この懐中時計には、『黒い桜石』という宝石が埋め込まれているんだ」
「それなら、すぐ回収しないとヤバいっすね」
シャルルがぶるっと体を震わせる。
「『黒い桜石』って、なんですか?」ルパンがボスに聞いた。
「みんな、この町で採れる宝石、桜石のことは知っているね? 桜石に願うと、一個につき一つだけ叶えることができるが、まれに現れる『黒い桜石』は、何度でも、どんな願いも叶えることができる。誰かに呪いをかけたり、操ったりするようなことも」
「悪いやつに使われたら、大変なことになる。この仕事、絶対に成功させるぞ」
シャルルがジルとルパンに声をかけた。
「よろしくね。無事に帰ってくるんだよ」
ボスに言われて、三人とも大きくうなずいた。
真夜中。新米怪盗の三人と一羽は、大きなお屋敷に忍び込んだ。
「すごいよ、ルパン。この部屋、綺麗なものがいっぱいある!」
ジルがうれしそうに言う。
「うん。ここから探すのは大変そうだね」
「ここの主人は珍しいものを集めて飾るのが好きらしいからな。手分けして探そうぜ」
しばらくして、ルパンがつぶやいた。
「懐中時計、なかなか見つからないね」
「何が見つからないって?」
誰かが答えた。三人が驚いて振り向くと、部屋の入り口に屋敷の主人が立っていた。
「物音がすると思ったら、泥棒だったとは」
主人がシャルルに向かって言う。
「きみの肩に止まっているのは、ピッポだな」
「知ってるのか?」
「もちろん。桜石を使って作られた、心を持つロボット。それにきみは、数年前の強盗事件の犯人だろう?」
シャルルが複雑な表情をする。
「そのロボットをこちらに渡せば、今回の件は見逃してやる。どうだ?」
「それはできない。ピッポはおれの相棒だ」
「そうか。それは残念だ」
主人がポケットから懐中時計を取り出し、ルパンの目の前に突きつけた。
「見ちゃダメだ! 心を操られるぞ!」
シャルルは叫んだが、『黒い桜石』の輝きに目を奪われてしまったルパンには聞こえていない。主人が懐中時計をポケットにしまい、「さあ、ピッポを捕まえるのだ」と言うと、ルパンは猛獣のように吠えながらシャルルに飛びかかった。
「おれが『黒い桜石』で呪いをかけられたときと同じだ。」
シャルルがルパンの手をつかみ、「目を覚ませっ!」と手に力を込めると、微かな電気が流れた。二人が戦っている間に、ジルがこっそり主人の後ろに回り、ポケットの中から懐中時計を取り出す。「これ、もらっちゃうね!」
森の中の秘密基地。三人と一羽がボスと向かい合って座っている。
「二人が戦ってる間に取ってきたよ。今回は、ぼくのお手柄だね!」
得意げなジルが、ボスに時計を渡す。
「ご苦労さま。初めてにしては上出来だよ」
「シャルル、さっきはありがとね」
ルパンがシャルルにお礼を言う。
「ああ。呪いは早めに解かないと、元に戻れなくなっちまうからな。って言っても、仲間に電気流すのは心が痛むよな……」
「まあ、無事に帰ってこれたし、よかったじゃん!」
ジルの言葉に、ボスが微笑んでうなずいた。