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おいらとアイツ

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おいらとアイツ

泉カンナ

おいらは、ねこ。グレーのシマシマもようのちびねこ。目の色は青空と同じ色。

おいらには、父ちゃんも母ちゃんもいない。気づいたら、段ボールの箱の中。公園のベンチの下にいた。それからずっと、この公園にいる。

この公園は、毎日たくさんの人がやってくる。

ジョギングする人、絵を描く人、仲良く遊ぶ親子。サッカーや縄とび、遊具で遊ぶ子どもたち。

いつもにぎやかで、おいらはそのようすを毎日眺めている。なかなか居心地の良い場所。

公園に来た人が、ときどきおいらの頭を撫でてくれる。

そして、みんながおいらにこう言うんだ。

「ステネコノノラ」って。

きっとこれがおいらの名前なんだ。

そんなおいらだけど、友達の一匹ぐらいはいる。そいつは、おいらと同じぐらいのちびねこ。

ただ、おいらと違って真っ黒け。目や鼻がどこにあるか分からない。それに、恥ずかしいのか「ニャー」と話しかけても返事もろくにしてくれない。

そっけないヤツだけど、おいらのことは好きみたいで、真似ばかりしてなついてくる。

おいらが歩くと、ひょこひょこひょこっとついてくる。おいらが止まると、アイツもピタリと止まる。おいらがジャンプすると、アイツも同じくジャンプする。いつも近くにまとわりつく甘えん坊。だからおいらは一匹なんかじゃない。父ちゃんや母ちゃんがいなくてもアイツがいるから寂しくない。

だけど、アイツはときどきおいらに秘密をつくる。内緒にしていることがあるのさ。それはおいしいものを自分だけで食べていること。

お日様がポカポカ照らす暖かな日は、おいらもアイツも昼寝をする。ゴロリゴロリと転がって、心がフワフワしていい気持ち。まるで雲の上にいるみたい。そしておいらの目はトローリトローリ重くなり、だんだん目の前が暗くなる。

目が覚めると夕方で、青かった空は燃えるように赤くなっている。おいらの目も真っ赤に染まっているのかな。

アイツの方に目を向けると、アイツの体が長ーく大きくなっている。おいらが昼寝している隙に、自分だけおいしいものを食べたに違いない。アイツにあれこれ聞いてはみたけれど、やっぱり返事をしてくれない。アイツお得意のすまし顔。

雨の日は、公園に誰も来ない。おいらは公園のベンチの下で雨宿り。ポツリポツポツ降る雨が、地面にはねかえっておいらのヒゲをぴちゃりと濡らす。

雨の日は好きじゃない。ひとりぼっちの一日は長く長く感じるから。

もちろんアイツも来てくれない。公園をぼんやり眺めていてもつまらない。誰もいない公園に、たくさんの水たまりがあちこちにできている。ガラリと静かな公園は、いつもの何倍も広く見えた。

アイツもどこかで雨宿りしてるのかな。真っ黒で何もしゃべらないアイツだけど、おいらにくっついてくるかわいいやつ。

アイツには、お父ちゃんやお母ちゃんがいるのかな。帰る家があるのかな。

シトシトシトシト降る雨の中、アイツのことばかり考えていた。

アイツはいつも決まっていなくなる。周りが暗くなると急にいなくなる。「バイバイ、また明日」も言えないままいなくなる。本当はもっと一緒にいたいのに……。

〝ギュルギュルギュル─────〟とお腹が鳴った。その音で目を覚ますとすっかり夜。おいら寝ちゃったんだ。

雨がやんで、空にはたくさんの星が光を放っている。おいらはベンチの上に飛び乗って、夜空を見上げた。手が届きそうなほどの大きなまんまるお月さま。なんだかとってもおいしそうで見とれてしまう。お月さまの光は公園にできた水たまりに反射して、きらきら輝いている。地面にたくさんの星が降ってきたみたいに。

お月さまも、おいらを光で包み込むように見つめてくれている。ふと後ろを振りかえると、アイツも同じようにお月さまを眺めていた。

「お月さまを見に来たのか?」

アイツに問いかけてみる。いつものようにおいらをじっと見つめるだけ。おいらは少し歩いてみた。すると、アイツもぴょこぴょこついてきた。それがアイツの答え方。

おいらはそれがうれしくて、うれしくて、お腹がペコペコなのも忘れて夜の公園を散歩した。お月さまも星たちも、おいらたちの歩く道を明るく照らしてくれていた。

「お月さま、お星さま、ありがと!!」

おいらは、一際大きな声で叫んだ。アイツの分までひっくるめて大声で叫んだ。すると、静かな夜空に声が響き渡り、もんもんとした気持ちがきらめく星たちのようにキラリキラリと弾みだした。無口で真っ黒で何を考えているか分からないアイツだけど、おいらの大事な友達だ。

「ありがとうなっ」

心がそう語っていた。おいらはアイツを横目で見ながら、夜の公園を歩き続けた。