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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「忘れ物代行屋」大町はな

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第43回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「忘れ物代行屋」大町はな

なに、簡単なことですよ。あたしたちは身体が無いでしょう。だからそのぶん、勘が鋭くなるんです。ええ、未来の予言だなんて、そんな大それたことはできやしません。ただちょっとばかし、見える世界が広いだけでね。

そもそも、生きてる人ってのはどうしてこう、注意力が散漫になるんでしょうね。やれ傘を忘れただの、風呂の水が出しっぱなしだっただの、そんなことの繰り返しで、こっちまで嫌になっちゃいますよ。きっと生きることに夢中で、周りがとんと見えなくなっちゃうんでしょう。あたしたちはもう、生きる必要が無いからね。忘れることが無いんです。

この仕事もね、最初は親切心から始めたんですよ。あの人たちが見えていないところを、あたしたちが手助けするんです。どうせそこらをふらついているだけなら、人様の役に立つようなことをしようって思い立って。まあ、もう随分昔の話ですけど、あたしたちは歳をとらないからね。あんまりわかりにくいですかね。ふふふ。今ではね、貰うものはきちんと貰ってますよ。半端に甘やかしたせいでしょうか、やることがうんと増えたんです。

ほら、言ってるそばから電気が付けっぱなしですよ。まったく世話の焼けることです。最近はあんまり過保護にせずにね、そのまんまにしておくこともあるんです。そうしなきゃ、おんなじことばっかりさせられるんだから、こっちもたまったもんじゃないよってね。だから今日は、電気消しません。気付かせてやるのも仕事のひとつだと思いますから。あたしたち、なかなか親切でしょう。

これまでいろんな人に憑いてきましたけど、昔に比べて本当、忙しい人が増えましたね。時間の流れ方がね、昔はあたしたちのところと大差なかったのに、今では随分、追い抜かれてしまいましたよ。足が速くなったもんですね。こんなことでかけっこしたって、しょうがないのに。

大変な時代ですよ、本当にね。無理にしがみつくことないのに、って思いますけど、あの人たちは必死ですから。一休みしているうちに、置き去りにされちゃうんでしょう。そうして居場所がなくなって、ついには消え失せてしまうんです。いやあ、怖いこと。

でもまあ、おかげさまであたしたち、大盛況ですよ。そのせいで担当がすぐに変わっちゃうんだけども、これが結構しんどいんです。忘れ物の癖って人それぞれでしょう。だから、人によって張り巡らせるアンテナも違うんです。それがコロコロ変わってしまって、やることもずっと増えるんじゃあ、こっちも気疲れしちゃいますよ。くれぐれも言いますけど、あたしたち、超能力なんてありませんからね。

しかし、いろんなものが変わってしまいましたけど、やっぱり世界ってのは綺麗なもんです。ずうっと見ていたくなりますよ、終わりの方までね。あたしたちだって、長く居られるわけじゃないんです。時間がくれば湯気みたいにね、消えちまいます。だから、お給料としてちょっとね、寿命を頂戴しているんです。お金なんてのはあたしたち、とっても使えませんから。ええ、こちらもあちらも、時間を伸ばす方法はおんなじです。もっとも、あの人たちは気付いてないみたいですけどね。「自分には守護霊が憑いてるんだ」なんて吹聴して、いい気なもんです。そんな好いものが憑いていればいいんですがね。

しかし、驚きました。霊媒師の方って、本当に見えちゃうんですね。ふふふ。あたしもついに、ばれちゃった。でもね、この人の身体が悪いのは、自業自得ってもんですよ。気を張ることもせずに無駄遣いしちゃって、さすがにあたしも、面倒見きれませんって。まあ出来ないことを補う者同士、仲良くしようじゃありませんか。あなたもお給料、貰ってるんでしょう。いい商売ですよね。お互いに。

あなたも気を付けて下さいね。あたしたちみたいなの、そこらにいっぱいいますから。生きることに気をとられて寿命を疎かにしちゃあいけませんよ。なんだかんだ言って、自分の身を守れるのは、自分しかいないんですからね。