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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「おみくじ」香久山ゆみ

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第37回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「おみくじ」香久山ゆみ

「あーくそ。末吉かよ! もういっちょう!」

亮平が大声を上げ、ポケットから百円を取り出し、木箱に納め、円く空いた穴に腕を突っ込む。

おみくじである。

彼は、もうかれこれ二十分はこうしておみくじを引いている。うんざりである。寒いし帰りたい。でも、けしかけたのは俺だから、放って帰るわけにもいかない。

男二人で虚しく年越し、初詣に来た。恋愛成就の神様がいるということで、奴のアパートから少し遠いこの神社まで千鳥足を運んだ。

参拝の後、おみくじを引いた。亮平は「小吉」が出た。去年の中吉よりも下がったーと嘆く亮平に、言ってやった。

「それは良くないな。去年以上を出すまで引き続けないと、縁起が悪いというぞ」

ほんのいたずら心である。昨年、俺を出し抜いて一人でモテようとこそこそマジックを習いに行っていた罰だ。

そこから彼は懸命におみくじを引き続けている。多少罰当たりな気もするが、きちんとお金を納めているのだから、まあ神様も許してくださろう。

「おい、吉が出たぞ! ……小吉と吉って、どっちが上なんだ?」

そんな彼をスマホ検索でサポートしながら今に至る。ちなみに、俺調べによると、おみくじの順番は、「大吉→中吉→小吉→吉→半吉→末吉→末小吉→凶→小凶→半凶→末凶→

大凶」で下がっていくそうだ。まあ神社にもよるらしいが。

で、亮平のおみくじは、確実に下降線を辿っている。

三十分経過。小凶。さすがに凶が出た辺りから奴も顔色が悪い。俺はまじで帰りたい。底冷え。けど、けしかけた手前があるし、さすがに凶で終えさせるのもかわいそうなので、我慢である。男の友情だ。

四十五分経過。ああ……、ついに出てしまった。大凶。目も当てられない。

けど、俺は懸命のエールを送る。

「やったな! これで打ち止めだ。あとは上がるしかないぞ!」

「おう!」

やけっぱちの亮平がおみくじ箱に腕を突っ込む。よし、これで終わりにしよう。前よりも上がったからそれでよし、と言いくるめよう。

亮平が腕を抜き、おみくじを開く。最後のおみくじを。

……大大凶?

えっ。凍りつく俺たち。神社オリジナルのおみくじもあるというが。明らかに大凶よりも下がっている。亮平は無言で継ぎを引く。

最凶。最大凶。地上最凶。宇宙最凶。……。どこまで続くのか。もはや下がっていっているのかも定かでない。

弱った。この調子では終わりが見えない。酒も抜けてきている。寒い。凶みくじを引いているのは亮平だが、奴はオーバーリアクションで引き続けてさほど寒そうにも見えない。これでは一緒にいる俺のほうが凶ではないか。……と、ふと閃く。

これ、あいつのいたずらじゃねえのか?

マジックを習得した亮平が、おみくじを引くふりをして袖口から自分で作ったおみくじを出して引いているのではないか?

いや。いやいや。燃える亮平はいまや腕捲りしているし、この神社に行こうと言ったのは俺だ。準備できようもない。

小銭の尽きた亮平は両替に行った。溜め息とともに目を落とした俺の視界に、小さなものが過ぎる。さかさかとおみくじ箱に近づき、箱をよじ登ろうとしている、目を凝らす。と、その小さなものが振り返る。小鬼だ。俺の視線に気づいた小鬼は、ぴたりと動きを止めもじもじしている。背中に結びつけた紙片に気づき、手を伸ばす。やめてやめてと言う小鬼を制して、抜き取った紙片を開ける。――メガトン級激悪最凶。

「おい」

睨みつけると、小鬼はますます小さくなりながら言った。

「あのう、神様たちが新年会をされていてですね。その余興に、亮平様が何枚御籤を引くか賭けようと閻魔様が仰ってぇ……」

はあ。溜め息に、小鬼が慌てて付け加える。

「あのあのあの。でも、見つかっちゃったら終わりなんでえ。お詫びに、大吉をお出ししますので」

「いいよ。そんなことしてもらわなくても、変な小細工さえなきゃ、あいつなら勝手に大吉引くから」

小鬼がぺこりとお辞儀して去っていくと、亮平が戻ってきた。

気合を入れなおした亮平がおみくじを引く。さあ行け!

――末吉。

思わず笑ってしまったら、奴に殴られた。が、初笑いだし、まあ良しとしよう。