阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「悪夢」安藤一明
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ここはどこだ?
気がつくと、僕はジャングルの中にいた。
どうして僕は、こんな場所にいるんだろう。
近くに墜落した飛行機もないし、そばには誰もいない。
とりあえず、僕はジャングルから脱出を試みた。ジャングルの中は酷く暑い。汗が大量に流れていく。
突然、遠くから猛獣の唸るような声が聞こえた。僕は近くの大木に身を隠した。
しばらくして声の主が現れた。
それは虎だった。虎は幸い、僕に気づかないようだ。
僕が今いた場所に虎が近づき、臭いを嗅ぎ始めた。
僕は金縛りにあったように動けない。
虎の視線が、ついに僕の体を捉えた。虎は唸りながら僕に近づいてくる。
次の瞬間、虎は僕に飛びかかってきた。
僕はその一瞬で死を覚悟した。
その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あなた、起きてちょうだい」
そこで僕は目を覚ました。自宅のリビングだった。
ジャングルで虎に襲われる夢を見ていたのだ。体中、汗だくだった。
炬燵の中で、うたた寝したらしい。暑くて苦しむ夢を見るはずだ。
妻が心配そうに僕を見る。
「どうしたの? 怖い夢でも見たの」
「ああ。すごく怖かった」
「そんな事より、どうしたらいいかしら?」
「何の話?」
「遺体よ。私が殺したあの子の遺体よ」
話がよく飲み込めない。
妻は「あの子」と言った。
僕と妻には高校生になる一人息子がいる。名前は亮太だ。
僕は妻に訊いた。
「遺体って亮太のことか?」
「そうよ。あの子の将来のことを話してるうちに口論になったのよ。それで私が首を絞めて……」
「君が殺したのか?」
妻は小さく頷いた。
僕は妻と一緒に亮太の部屋を見に行った。
部屋のカーペットの上に亮太が倒れていた。息はしていない。
僕は妻に言った。
「なんとかして、遺体を隠そう。近所の山の奥なら見つかる心配がないだろう」
僕は妻と協力して、車のトランクに亮太の遺体を隠した。
僕が運転席に乗り、妻は助手席に乗った。
二人で周囲に気を配りながら、山へと向かった。山の奥深くまで来ると、歩行者も車も全く見ない。
遠くに切り立った崖が見えてきた。
僕は言った。
「あの崖から遺体を突き落とそう」
「ええ」
崖のそばに車を停め、トランクから遺体を二人で取り出す。
その時、背後から男の声がした。僕と妻は驚いて振り返った。
そこにいたのは二人の男だった。男は警察手帳を見せた。
「我々は刑事だ」
刑事の一人が訊いた。
「その遺体は何だ?」
「そ、それは……」
刑事は手錠を取り出した。
「お前たちが殺したんだな。殺人の容疑で逮捕する」
僕と妻は、手錠をかけられてしまった。ああ、人生も終わりだ。
その時、僕は肩に何かが当たるのを感じた。そして、僕の体が誰かに揺すられる。
そして、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。
「おい、君。起きなさい」
そこで僕は目を覚ました。
僕の肩を揺すっていたのは、会社の上司の山中課長だった。
僕は夢の中で夢を見ていたのだ。そして、この世界こそ現実なのだ。
ここには獰猛な虎もいないし、息子も妻も平和に暮らしている現実がある。
僕は安堵して溜め息をついた。
「ああ、よかった……」
山中課長が僕を怒鳴った。
「この馬鹿者。全然よくないだろう。今、何をしてるのか、わからんのか」
僕は周りを見回した。
しまった。今は会議中だったのだ。
これも一種の悪夢である。