文章表現トレーニングジム 佳作「ママには内緒」 発芽米
第10回 文章表現トレーニングジム 佳作「ママには内緒」 発芽米
それは、幼い私にとって衝撃的な味だった。パリパリの食感と、塩気を含んだじゃがいもの風味。指についた食べかすをなめとると、またすぐ次に手を伸ばしたくなる。そう、ポテトチップスだ。そのジャンキーな味を教えてくれたのは祖父だった。こっそり食べさせてもらったその味にすっかり魅了された私は父と母に同じものが食べたいとせがんだが、困ったことに商品名を覚えていなかった。パッケージに描かれたじゃがいものキャラクターをヒヨコだと思い込んで、ヒヨコのお菓子が食べたいと訴えた。次の日父が買ってきたひよこ饅頭を見てこれじゃないと泣き出す私。祖父に答え合わせをしてその正体がポテトチップスだと分かり、皆大笑いだったそうだ。
今でも蘇るのは、初めての味に子どもながらに受けた衝撃、母に内緒で祖父とこっそり菓子袋を開けるときの、ワクワク感。当時は、体に悪そうだからとスナック菓子はあまり買ってもらえなかった。だからだろうか、あのとき食べたポテトチップスは、不思議なほどに美味しかった。今となっては、どこにでも売っているスナック菓子の味一つに純粋な感動を覚えていた幼き日の自分に、ある種の羨ましささえ感じる。けれど、ポテトチップスの袋を開けるとき、、きっと私はこれからも思い出すだろう。二人で食べたあの味を、ママには内緒と言いながら指切りげんまんした、祖父の無邪気な笑顔を。