文章表現トレーニングジム 佳作「海と鳥と実の父」 ひろは
第10回 文章表現トレーニングジム 佳作「海と鳥と実の父」 ひろは
どこまでも可能性を広げ、七色の具を操る日本の心おにぎり。
その中で、異彩を放ちながら揺るがない支持を集めるのがツナマヨその具だ。他の具とは違い、食卓に並ぶというイメージがあまり無い為か、ご飯のお供というワードではピンとこない。そんな逆境を跳ね除け、コンビニおにぎり界のレギュラーメンバーとしての確固たる地位を築き上げたツナマヨだが、それに異を唱える者がいた。わたしの実の父秀樹だ。まず、昔ながらの食文化を愛す父は、ご飯にマヨネーズは天変地異が起きても交わる事はないと言う。かといってマヨネーズに対し否定的なわけではなく、もちろんツナが嫌いなわけでもない。かわいいむすこが誕生日プレゼントに、かっこいいボクサーパンツを買ってきてあげても、それは絶対に履かず、ダルダルになった昔からの白いブリーフしか断固履かないという強い信念を持つ父が、拒絶しているツナマヨおにぎりを口にする事自体があり得ない事なのかもしれない。そんな失意の中、突然その時は訪れた。老眼の進む父の目に、ツナマヨという四文字が何と映ったのかはわからないが、誤ってツナマヨおにぎりを口にしたのだ。
ご飯とマヨネーズのハーモニーという初めての味に戸惑いを見せる父だったが、開口一番「うまい!」と大興奮。今では「一番好きなおにぎりの具は?」の質問に父は「ツナマヨ」と食い気味に答える事は言うまでもないだろう。