文章表現トレーニングジム 佳作「初めてのラブレター」 鈴木功一
文章表現トレーニングジム 佳作「初めてのラブレター」 鈴木功一
家に帰って来たら、机の上に手紙が置かれていた。可愛い封筒の裏には、同級生の女の子の名前が書いてあった。キョトンとしていると、後ろから母の声がする。
「ラブレターじゃないの」
中学一年の男の子にはなんだか分からない。母の一生のお願いを聞いて一緒に読むことになった。少し悪い気がした。
内容は詳しくは覚えていないが、お付き合いしたいとのことである。勉強や部活を理由にやんわりと断った。本当は家族や級友の手前、恥ずかしかったからだ。
陸上部でもギクシャクしてしまい、前よりもよそよそしくなった。学校対決のリレーで勝っても、おめでとうとも言えない。補欠の身では気後れしてしまったのだ。
秋の長雨のある日のこと、学期の途中なのに転校することを知らされた。父の転勤に併せて家族で引っ越すそうだ。友達との別れが淋しいのだろう。お別れ会での彼女は人前もはばからず大粒の涙をためている。ボーっと見てるしか出来なかった。あなたとの別れを悲しんでいたのに冷たい態度が許せない。何人かの女子に吊るし上げられた。
しかし、人は失って初めて大切なことに気づく。抗議が傷口に塩をぬるように身にしみた。小柄で足が速かった、日焼けした笑顔が忘れられなくなっていた。