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文章表現トレーニングジム 佳作「半世紀目の再会」 山本しげ子

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文章表現トレーニングジム 佳作「半世紀目の再会」 山本しげ子

箱型のスツールから思いがけないものが出てきた。長い間放置されたことを物語った、所々に茶色のシミがついた十通程の手紙だ。

差出人の名前を確認すれば、どれも懐かしい顔ぶればかり。

結婚後の転居、家の建て直しと引っ越しをしたにもかかわらず、ずっと手元に置いてきたことになる。しかし、保管した当時の記憶がおぼろの彼方から蘇ってこない。手紙はこのたび共に古希を迎えるかつての同級生たちからで、高校時代から社会人になったばかりの当時のものだ。しかしながら、鉛筆やペンで認めた文字から浮かぶ彼女たちの顔は、まだ皺も白髪もない幼さを残した少女のまま。

十通ほどのなかに、思わず耳を澄ませて記憶を辿ることになったものが幾つかあった。A子が恋愛の胸中を切々と語り、同じ職場にいたB子が突然会社を辞めた経緯を説明し、友人同士のすれ違い綿々と訴えたC子の、当時の葛藤がそこに吐露してあった。

読み終えたあと、迷うこと無く処分に掛かった。思い出に浸りながら一通ずつ細かく裂いた。遠い昔の囁きを、半世紀も経ってから再び、それも昨日のことのように聞くのはフェアではないと思ったからだ。狭いスツールの箱の中でずっと告白をし続けていたと知ったら、どの友も興醒めするだろう。

その一方で、無防備だった時代の私が書いた手紙が、当の彼女たちの手元にある可能性に閃き、どっと冷や汗が吹き出た。