阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作「実況質屋」嘉島ふみ市
「こんばんは。本日は、ここ有明質店特設スタジアムから、キャバ嬢ジュリ対店主小金沢の無制限一本勝負をお送りしたいと思います。解説は山本鋼鉄さん。実況は倉田でお送りします。鋼鉄さん、宜しくお願いします」
「はい、お願いします」
「では鋼鉄さん、本日の対決の見どころなどは、どういったところでしょう」
「そうですね。三十路目前のジュリの切羽詰まった的なアピールを、ベテラン店主の小金沢がどう躱すかというところでしょうね」
「なるほど。あ、そうこう言っているうちにジュリの入場です。羽織ったヒョウ柄のジャケットは、浜崎あゆみを彷彿とさせるクラシカルスタイルです」
「ふてぶてしいですね」
「それを迎え撃つ店主の小金沢は、おおっと新聞を読んでいる。なんという挑発的な態度でしょう。まるで、お前なんかただの客だといわんばかりです」
「いいですねえ。ベテランの成せる業です」
「さあ、ジュリが椅子に座り小金沢と目が合いました。今試合開始のゴングが鳴ります。しかし、両者見合ったまま動きません。これは、どういうことでしょう鋼鉄さん」
「おそらく、まだお互いに間合いを探っている段階ですね。お、ジュリが先に動きましたよ」
「先制はジュリか。おおっとこれはケリーのバックだ。思わず小金沢がのけぞる。効いたか?効いたか?」
「二百万弱はするバックですよ。ジュリは良いものを持ってますね」
「バックを手に取る小金沢。睨みつけるジュリ。先に主導権を握るのはどっちだ」
「緊張感がありますね」
「さあ、早くも小金沢が電卓を手に取った。もう試合を終わらせる気か。金額を打ち込み電卓をジュリに見せたが、これは安いー」
「小金沢の素晴らしいカウンターです」
「ジュリ完全にグロッキー。ダウン寸前です。闘えるか?ファイティングポーズはとれるか?」
「何とかダウンは免れたようですが、かなりのダメージですね」
「ジュリはここからどう逆転していくのか。ん?ジュリ、これはキャバクラに来たムカつく客の話ですか?そして続いてムカつく店長の話だ。どういうことでしょう鋼鉄さん」
「おそらくジュリは場外に持ち込む気ですね。値段交渉のリングから出て、まず自分の得意なフィールドでペースをつかもうということですね」
「なるほど。さあジュリが小金沢を値段交渉から場外に引きずり出して、ひどい男の話からの、悲惨な幼少期の話だー」
「荒れてきましたね。ジュリ得意のラフ攻撃です」
「おおっと小金沢ちょっと目が潤んでいるー。これは効いてしまったー」
「長いキャリアが裏目に出てしまいましたね。年齢を重ね涙もろくなっているところを突かれました」
「ジュリは小金沢が弱ったところを見過ごさず、すかさず値段交渉のリングに戻った。ああっと、ここでジュリが泣き出しました。泣き落としだー。垂直落下式の泣き落としだー」
「ジュリの必殺技ですよ」
「その姿が小金沢の胸に突き刺さったー。同情した小金沢は電卓を手に取り、さっきの金額にゼロをひとつ足そうとしているー。ダメだー。そのジュリの涙は嘘なのにー」
「小金沢は万事休すですね」
「さあカウントが入る。ワン、ツー。おおっと電卓を打つ手が止った。カウント二.九九。小金沢助かったー。しかし、これはどうしましたか、鋼鉄さん」
「小金沢が何かに気づいたようですよ」
「何でしょう。小金沢がバックの中を見ています。これはタグを見ていますか。しかし、ケリーのバックにタグ?ああっと、これはケリーのスペルの二つ並ぶエルがエヌになっているー。このバックはケリーじゃなくケニーです。偽物だー」
「これは、みごとな返し技ですね」
「ジュリ、ギブアップです。勝負ありです。もう闘えません。勝者、店主小金沢。敗れたジュリは誰の手も借りることなく一人で花道を帰ります」
「いやー、素晴らしい闘いでしたね」
「次回はジュリの勤務するキャバクラ、レディーギャンギャンコロシアムよりジュリ対小金沢のダイレクトリマッチをお送りします」
「楽しみですね」
「では、今夜はこの辺で、ありがとうございました」