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阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「借金地獄へようこそ」見坂卓郎

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第30回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「借金地獄へようこそ」見坂卓郎

ここはどこだ? ズキズキ痛む頭をおさえながら周囲を見回す。アーケードに掲げられた看板を見て、近所の商店街だと気がついた。

ふと足元を見ると、銀色のアタッシェケースが転がっていた。……何だこれは。

私は今までの出来事を思い出そうとした。

木造の古ぼけた建物が頭に浮かんだ。丸眼鏡の老人が貸す、借りる、といったフレーズを繰り返した。そうだ、質屋だ。どこかの質屋を訪ねてお金を借りたんだった。

しかしその前後がはっきりしない。何のために、何を質に入れて、いくら借りたのか。

突然、薄暗い部屋がフラッシュバックのように思い出された。白い装置、黒いイス。頭にその装置をつけられた私が何かを叫んでいる――。そこで記憶がぷつりと途切れていた。

足元のアタッシェケースを持ち上げてみる。妙に軽い。いやな予感がして、建物の陰で中身を確かめてみた。

「おい、嘘だろ……」

中は空っぽだった。代わりに借用書が一枚入っていた。そこには目が飛び出るような金額が書かれていた。

借りたお金はどこに消えた?

わからないことだらけだった。気持ちを落ち着かせるため、自宅のアパートに戻った。何か手がかりがないかと部屋中をひっくり返す。しかし、結局何も見つからなかった。

次の日、私は質屋を訪ねることにした。何を質に入れたか教えてもらうためだ。幸いなことに、借用書に住所が書かれていた。

見覚えのある丸眼鏡の老人が顔を出した。

「先日ここでお金を借りた者ですが」

「おや、もう返済かね?」

「いえ。何を質に入れたか忘れてしまって」

老人はニヤリと笑った。

「あなたの『大切なもの』だよ。期限まであと五日だ。それまでに思い出せるといいがね」

結局教えてくれなかった。しかし、その言葉には不気味な響きがあった。このお金を返さないと大変なことになる――。そう感じた。

さっそく消費者金融を数店当たってみた。が、どこもまったく相手にしてくれなかった。

藁にもすがる思いで、十年来の友達を近くの喫茶店に呼び出した。

「金かぁ。残念ながらお前に貸せるような手持ちはないぜ」

「どこか金を借りられるところを知らないか。普通の消費者金融じゃないところで」

友人は腕組みをして考え込んだ。

「本当にヤバイとこなら心当たりがあるけどな。俺が知ってるのは青鬼と赤鬼」

「何だそりゃ?」

「青鬼はトイチの高利貸しだよ。十日で一割の利子がつく」

「おいおい」

「青鬼はまだマシだ。赤鬼は十日で三割。しかも、返せないと腎臓や角膜を取られるとか」

絶対いやだ。そう思いつつも念のために青鬼の連絡先だけ聞いておいた。

家に帰るとまた不安に押しつぶされそうになった。私の大切な何かが危険にさらされている。心当たりがないことも不気味だった。

その夜、私はとうとう青鬼に電話を掛けた。

翌日、青鬼から借りたお金をアタッシェケースに詰めて質屋に向かった。

「いらっしゃい。返済かね」

「そうです。お金を用意してきました。質に入れたものを返してください」

丸眼鏡の老人は中身を確認して、「確かに」といい奥の部屋へと促した。そこには見覚えのある白い装置が置かれていた。それをぽんぽんと叩きながら老人が言った。

「あなたの記憶があいまいなのは、これが原因だよ。副作用で、前後の記憶が一時的に失われた状態になる」

老人がリモコンを操作すると、壁の大型ディスプレイに私の姿が映った。どうやら私が最初にここを訪れたときに撮られたようだ。

映像の中の私は、ギャンブルの借金で首が回らなくなり青鬼からお金を借りたこと、その返済のためにここを訪れたことを語った。

アタッシェケースが空だったのは、青鬼に返済したからか――。いや、納得している場合じゃない。つい先程、その青鬼からまた多額の借金をしてしまったのだから。

「困っているようなら力になるよ。あなたは期限内に完済した優良客だからね」

老人はそう言うと私の顔をじっと見つめた。

「あなたのその質草を私に譲ってくれないか。借金なんぞすぐチャラにできる」

「私は一体、何を質入れしていたんですか」

老人はニヤリと笑い、私の頭を指さした。

「それだよ、それ。あの装置で検査したところ、あなたの脳はとびきり状態がいい。十年に一度の上玉だ。すぐに高値で売れる」

その瞬間、私はすべて思い出した。この赤鬼の質屋で、自らがした契約のことも。