佳作「おさみし見舞い やまざき和子」
第6回 文章表現トレーニングジム 佳作「おさみし見舞い やまざき和子」
或る朝突然に夫の死に直面しました。いつもは7時過ぎには起きて来る人が、8時になっても起きて来る気配が無いので様子を見に行ったら既に身体が硬直して冷たくなっていた、という状況でした。
それからの数日は何が起きたのか分からないような混沌とした時間の流れでした。幸いなことに私はクリスチャンで、何をどうしたらいいのか分からないでいる私に教会が全てイニシアティヴを取って葬儀までの段取りを整えてくれたのと、クリスチャンでは無かった夫も、教会で葬式をして教会墓地に一緒に入ることには賛成してくれていたので、一番大変な時期は何も分からないまま滞りなく過ぎていったと思います。
親友の美奈子が我が家を訪ねてくれたのは二週間後のことでした。「おさみし見舞いよ」と菓子折りを手渡してくれました。美奈子のご主人の郷里では、葬儀のあと暫くしてから残された女・子供にお菓子を持って行く習慣があって、それを「おさみし見舞い」と呼ぶのだそうです。一連の慌しさが去って、ふとさみしさが蘇って来る時期の何とも優しい思いやりだと思います。
開けてみると、あられ、かりんとう、ねじりん棒などの昔ながらの懐かしい駄菓子が詰め合わされていて、私もその時初めてじんわりと悲しさが滲んで来ました。
駄菓子、この豊かなる心遣い。