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アマチュア作家がやりがちな4つの大きな過ち

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

江戸川乱歩賞

今回は、江戸川乱歩賞について述べることにする。ここ数年、江戸川乱歩賞受賞作は、かつての二次選考通過レベルにまで落ちており、衰退ぶりが著しい。特にW受賞の場合は「甲乙つけがたい傑作」が二作品並ぶよりは、「帯に短し襷に長し」の二作品に授賞される事例が多く、第五十七回の『よろずのことに気をつけよ』(川瀬七緒)と『完盗オンサイト』(玖村まゆみ。受賞時タイトルは『クライミング ハイ』)が、そうである。


川瀬の『よろずのこと』について論じると、そこそこ文章は巧いし、ヒロインの真由のキャラが立っている。その点は評価できるのだが、細部まで組み立てずに、勢いで書き上げた形跡が散見される。新人賞を狙うアマチュア作家がやってはNGの注意点も幾つかあるので、順次、取り上げる。


①登場人物を使い捨てにするべからず
一定以上の重要度を持つ人物を物語の途中で一回だけ登場させ、以降は一度も出ない、という〝使い捨て〟的な出し方をしてはいけない。
『よろずのこと』では、ヒロイン真由にDVする父親が、後半になって唐突に登場し、主人公と真由に暴力を振るって捕まり、それっきりラストまで出てこない。


明らかに選考時の減点対象となる。ストーリー構成を考えたら、エクセルでも使って、主要登場人物は全体的にバランス良く配置しなければならない。一回一回の登場間隔が大きく開くことのないように。一回こっきりの〝使い捨て〟は論外。


例外は、冒頭で殺人事件の被害者を発見したり事件現場を目撃する〝善意の第三者の証人〟で、これだけは以降ずっと最後まで出なくても減点材料とはならない。


真由の父親以外では何回か登場する〝そこそこ重要な人物〟が二人ばかりいるのだが、配置のバランスが悪い(つまり登場間隔が開く)ために、「あれ? これは誰だっけ?」となって、しばらく読み進んだところで思い出す、という状況になる。書き手には自明でも、読者にとっては必ずしも自明ではない。一般読者は一日で読破することは少なく、記憶力抜群という人も少ないから、バランスの悪い登場人物配置の作家は読者から見放される。これは大きな減点材料ではないが、将来のことを考えたら、きっちりエクセルなどで登場人物を配置する習慣を身につけておくことだ。


②警察を間抜けにするべからず
主人公を探偵役に設定するミステリーを書くアマチュアが犯しがちな間違いが、警察を間抜けにする手法。その対比で主人公を名探偵に見せたい心情は理解できるが、それは必ず読者に見透かされるし、安易に警察を間抜けにすることで、主人公までもが名探偵どころか、単なる盆暗に見えてくる。『よろずのこと』は、そこまでヒドくはないが、警察の捜査を手ぬるくすることで、事件解決を無用に引っ張っている印象を受け、後半がグダグダ、竜頭蛇尾の物語という印象を免れない。


③主人公のミスで危機を演出するべからず
『よろずのこと』の後半がグダグダになる理由の一つが、主人公にポカを犯させることで致命的な危機的状況を演出する手法を採っていることだ。主人公が注意深ければ陥り得ないピンチでスリリングな場面を演出すると、今後とも、どんどん安直な方法に逃れることになり、読者に見放される。


主人公は、考え得る限りノーミスで行動して、それでもなお敵の知恵のほうが上回ったせいで、どうにもならないピンチに陥り、危機一髪とならなければいけない。


④殺人事件の動機は、とことん考えろ
『よろずのこと』の後半がグダグダになる理由の第二が、冒頭の殺人事件の動機の安直さだ。被害者は、かつて交通事故轢き逃げ事件の犯人で、その事件は、恋人の父親が警察官僚のトップであった地位を利用して握り潰し、その復讐として殺人事件が起きた、という陳腐きわまりないもの。

もっと気の利いた目新しい動機が考えられなかったものか。受賞から刊行まで日時があったのだから訂正できたはず。


その轢き逃げ事件の現場にしても、携帯電話が圏外になる福島県の山奥のド田舎で、とうてい猛スピードでの走行は不可能な場所。そこで、一人だけでなく、何人もの子供がはね飛ばされて全員が即死するような状況が起きるかどうか、ちょっと深く考えてみれば矛盾点に気づくはずなのに、誰も気づかなかったとは、どういうことか。


呪術の世界は、ホラー小説大賞にも応募できそうな蘊蓄が詳しく述べられていて、非常に良かった。ただ、選考委員の中で京極夏彦氏だけが、間違いが多い旨の講評を書いていて、他の選考委員は、その点には全く触れておらず、むしろ高評価だった。


細かい蘊蓄の間違いは、選考委員にバレてさえいなければ良い。とにかく『よろずのこと』には参考にすべき点が多い。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

江戸川乱歩賞(2013年2月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

江戸川乱歩賞

今回は、江戸川乱歩賞について述べることにする。ここ数年、江戸川乱歩賞受賞作は、かつての二次選考通過レベルにまで落ちており、衰退ぶりが著しい。特にW受賞の場合は「甲乙つけがたい傑作」が二作品並ぶよりは、「帯に短し襷に長し」の二作品に授賞される事例が多く、第五十七回の『よろずのことに気をつけよ』(川瀬七緒)と『完盗オンサイト』(玖村まゆみ。受賞時タイトルは『クライミング ハイ』)が、そうである。


川瀬の『よろずのこと』について論じると、そこそこ文章は巧いし、ヒロインの真由のキャラが立っている。その点は評価できるのだが、細部まで組み立てずに、勢いで書き上げた形跡が散見される。新人賞を狙うアマチュア作家がやってはNGの注意点も幾つかあるので、順次、取り上げる。


①登場人物を使い捨てにするべからず
一定以上の重要度を持つ人物を物語の途中で一回だけ登場させ、以降は一度も出ない、という〝使い捨て〟的な出し方をしてはいけない。
『よろずのこと』では、ヒロイン真由にDVする父親が、後半になって唐突に登場し、主人公と真由に暴力を振るって捕まり、それっきりラストまで出てこない。


明らかに選考時の減点対象となる。ストーリー構成を考えたら、エクセルでも使って、主要登場人物は全体的にバランス良く配置しなければならない。一回一回の登場間隔が大きく開くことのないように。一回こっきりの〝使い捨て〟は論外。


例外は、冒頭で殺人事件の被害者を発見したり事件現場を目撃する〝善意の第三者の証人〟で、これだけは以降ずっと最後まで出なくても減点材料とはならない。


真由の父親以外では何回か登場する〝そこそこ重要な人物〟が二人ばかりいるのだが、配置のバランスが悪い(つまり登場間隔が開く)ために、「あれ? これは誰だっけ?」となって、しばらく読み進んだところで思い出す、という状況になる。書き手には自明でも、読者にとっては必ずしも自明ではない。一般読者は一日で読破することは少なく、記憶力抜群という人も少ないから、バランスの悪い登場人物配置の作家は読者から見放される。これは大きな減点材料ではないが、将来のことを考えたら、きっちりエクセルなどで登場人物を配置する習慣を身につけておくことだ。


②警察を間抜けにするべからず
主人公を探偵役に設定するミステリーを書くアマチュアが犯しがちな間違いが、警察を間抜けにする手法。その対比で主人公を名探偵に見せたい心情は理解できるが、それは必ず読者に見透かされるし、安易に警察を間抜けにすることで、主人公までもが名探偵どころか、単なる盆暗に見えてくる。『よろずのこと』は、そこまでヒドくはないが、警察の捜査を手ぬるくすることで、事件解決を無用に引っ張っている印象を受け、後半がグダグダ、竜頭蛇尾の物語という印象を免れない。


③主人公のミスで危機を演出するべからず
『よろずのこと』の後半がグダグダになる理由の一つが、主人公にポカを犯させることで致命的な危機的状況を演出する手法を採っていることだ。主人公が注意深ければ陥り得ないピンチでスリリングな場面を演出すると、今後とも、どんどん安直な方法に逃れることになり、読者に見放される。


主人公は、考え得る限りノーミスで行動して、それでもなお敵の知恵のほうが上回ったせいで、どうにもならないピンチに陥り、危機一髪とならなければいけない。


④殺人事件の動機は、とことん考えろ
『よろずのこと』の後半がグダグダになる理由の第二が、冒頭の殺人事件の動機の安直さだ。被害者は、かつて交通事故轢き逃げ事件の犯人で、その事件は、恋人の父親が警察官僚のトップであった地位を利用して握り潰し、その復讐として殺人事件が起きた、という陳腐きわまりないもの。

もっと気の利いた目新しい動機が考えられなかったものか。受賞から刊行まで日時があったのだから訂正できたはず。


その轢き逃げ事件の現場にしても、携帯電話が圏外になる福島県の山奥のド田舎で、とうてい猛スピードでの走行は不可能な場所。そこで、一人だけでなく、何人もの子供がはね飛ばされて全員が即死するような状況が起きるかどうか、ちょっと深く考えてみれば矛盾点に気づくはずなのに、誰も気づかなかったとは、どういうことか。


呪術の世界は、ホラー小説大賞にも応募できそうな蘊蓄が詳しく述べられていて、非常に良かった。ただ、選考委員の中で京極夏彦氏だけが、間違いが多い旨の講評を書いていて、他の選考委員は、その点には全く触れておらず、むしろ高評価だった。


細かい蘊蓄の間違いは、選考委員にバレてさえいなければ良い。とにかく『よろずのこと』には参考にすべき点が多い。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。