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佳作「贈り物? ほしのゆきお」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第18回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「贈り物? ほしのゆきお」

ある晴れた日の早朝、ニュートーキョー郊外、F市。広々とした畑の真ん中に、それは忽然と現れた。第一発見者だという男の顔がテレビに大写しになり、興奮気味に語るのを多くの人が目にした。

「今朝、畑に行こうとしたら、いきなりあれがでーんと目の前にあったんだ。いや、昨日の晩は静かだったよ。地震もなにもなかったし」

画面が振られ、直径二百メートルはあろうかという丸い石が映し出された。

「不思議としか言いようがありません。まるで巨人がそっと置いたかのようです」

レポーターの説明にかぶせるように、カメラは磨き上げられたような石の表面を舐めるように写す。真球のようなその姿から、自然にできたものでないことは誰の目にも明らかだった。

ニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。官邸は異例の速さで自衛隊の派遣を決めた。しかし、首相が胸を張って会見を行っている頃、同盟国のB国の軍隊はすでに現場に到着していた。

「F市近隣にはわが国の基地がある。つまりわが国の防衛上の問題だ。よって、本物体の管理はわが国が行う」

突然のB国大統領の演説に、世界中からブーイングの嵐が起こった。R連邦大統領は青筋を立ててまくし立てた。

「B国は何かをドーピングしている。おれたちにも情報を寄越せ」

C国の首席は言った。

「大国であるわが国は、四千年の歴史から言っても、いっちょ噛む必要がある」

A国首相も声を荒げた。

「わが国は、地球連邦からの離脱を検討する!」

世界中が大混乱に陥っている頃、現場ではさらに驚くようなことが起こっていた。石の表面に突然縦に亀裂が走ったかと思うと、やがて石がゆっくりと音も立てずに真っ二つに割れたのだ。なかはきれいにくり抜かれている。B国軍はドローンを飛ばし、どう見てもA4の紙にしか見えないものを回収した。紙には文字が書かれてあった。

あなたたちは、ひとりぼっちじゃない

文字を大写しにした映像は世界中に配信された。B国大統領は高らかに宣言した。

「ご覧のように、B国語で書かれてあるのだから、B国が管理することに異議はないはずだ」

ところが、映像を見た各国政府から即座に抗議の声が挙がった。

「なにを言っているんだ! R国語で書かれてあるではないか」

「いや、だれが見てもC国語だ」

B国は、映像を配信したことを後悔したが、時すでに遅かった。そして、B国大統領は自分の失態を取り戻すべく、同盟国を見限る決断をした。

「F市ごと地上から抹殺してしまえ」

大統領の言葉に、国防大臣は耳を疑った。

「大統領、三度あの国に……」

「だまれ! 例のペーパーを回収し次第、核ミサイルを発射したまえ」

二十分後、太平洋上の海中から一機のミサイルが空に舞い上がった。しかし、B国大統領はもうひとつ大きなミスを犯していたことを思い知る。

ニュートーキョー近郊の自衛隊基地が、核ミサイルをレーダーで補足するや、首相官邸の緊急電話が鳴った。それがF市に照準が合っていることを知った首相は、即座に命令した。

「全核ミサイルをB国に向け発射せよ!」

かつての核攻撃をこの国は忘れていなかった。そして、ひそかにこの日のために準備を進めていたのである。B国は、二十機の大陸間ミサイルの飛来を知り、世界中に向け、核ミサイルのボタンを押した。やがて、地上に存在するすべての核ミサイルが空を飛び交うのを、人々は見た。

地球上空四百キロ。地上に咲く無数のきのこ雲を見ながら、葉巻型母船はゆっくりと軌道を離れ始めた。

「地球では、サプライズが流行っていると聞いたので、あのようなかたちで手紙をお送りしたのですが……」

副官の肩に手を置いて、司令官は穏やかに言った。

「火星に人類が降り立ったのだし、そろそろ付き合いを始めてもいい頃だと思ったのだがなあ。気にするな。想定外のこととして、連邦に報告しておいてくれ」

母船の窓から見える地球は、急速に小さくなり、やがて亜空間の向こうに見えなくなった。