佳作「姫への贈り物 あべまりあ」
昔々、ある国に世界で一番美しいお妃がいた。嫁ぐ時にお妃は、母親からある鏡を渡された。
「困ったときはこの鏡に相談なさい。きっとあなたを助けてくれるわよ」
お妃はそれを大事に受けとり、鏡を友とするようになった。そのおかげで、孤独に悩むこともなく、新しい国では評判になった。
そんなある日、お妃は身ごもった。鏡にどんな子が生まれるか問うた。
「世界で一番美しいお姫様が生まれます。あなたの血がそうさせるのです」
私より美しい姫が生まれるなんて。私の誇りだわ! 育てがいがあるというものよ。鏡はさらに忠告をしたが、お妃ははしゃいで聞いてなかった。鏡の忠告は
「大変な問題児になるので、あなたは心痛のため世界で一番醜くなります」
というものだった。
姫はお妃のいうことはちっともきかず「うるせーんだよ、タコ」とか「殺すぞババア」とか汚い言葉を使ったり、勉強もせず、頭は悪かった。せっかくのドレスも着ず、男の服を着て毎日剣のけいこをしていた。
王様はお妃が別の男の血を入れたのではと疑ったが、数々の仕草が自分と同じなので、黙っていた。
思春期に入り、姫は美しくなって、見る者の目を奪った。だが姫は仲間を集めて馬の遠乗りをして酒とケンカにあけくれていた。今でいう暴走族である。国で一番剣や銃の扱いがうまいので、乙女たちにも人気があった。
お妃はため息をついて鏡に相談した。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん、姫の将来が心配だわ。どうしたらいいのかしら」
鏡は答えた。
「仕方がありません。これも運命なのです。ただ王族である証拠に気品あふれる姫なので、そこが皆に人気があるのです」
「でも姫は姫らしくせねば、国は滅びてしまうわ」
鏡は告げた。
「それはありません。姫はそのうち恋をします。そして相手と愛し合い、国を守ります」
お妃は恐る恐る尋ねた。
「まさか泥棒とか?」
鏡ははっきり答えた。
「隣の国の王子です。彼も暴走族の頭です。数々の荒くれ者と戦って、恐れられるくらい強い。しかし姫君はそれでも負けずに戦うので、向こうは根性があると感心し、惚れています。姫もまんざらではないようです」
お妃は複雑な気持ちになった。確かに結婚するには値する身分の者だけど、不良同士の恋なんて……。
お妃は決心した。姫を呼びつけ鏡を渡した。
「姫、いい加減女王学をこの鏡に習いなさい。あなたが素敵なのは品のある番長だからよ。あなたは結婚するに値する身分の持ち主と結ばれるけど、やんちゃはやめて」
それでも姫は嫌がった。隣の国の王子とどっちが強いか思い知らせてからすると、姫らしい発言をした。
そして決闘の日。姫は王子に
「これは宣戦布告だ。どっからでもかかってきな」
と男みたいな口をきいた。王子は笑った。
「おう、受けて立つぜ」
試合が始まった。二人の剣が交差する。そのうち王子が顔を青くした。姫は王子の手から剣を払ってやろうとしたが、二人同時に剣が折れた。あいこである。ふたりとも腰が抜けて座り込んだ。王子はため息をついた。
「さすが俺が初めて認めた女だ。ここまで強いのはお前しかいない。弱ったなぁ。勝ったらプロポーズしようと思ったんだが」
姫は姫で
「いや、俺の負けだ。今回みたいな恐怖はもうしたくない。その誘い、喜んで受けとるぜ」
とたまたま側にあったリンゴをかじった。そのとき鏡が
「いけません! そのリンゴはネズミ退治のためのネコイラズを塗ったものです」
しかし、その言葉は遅く、姫は倒れた。
「理想の女が死ぬなんて……」
王子は嘆き悲しんだ。姫を抱きしめて口付けした。そのうち王子が鏡に質問した。
「おい、姫はリンゴが喉につまってるだけじゃないのか?」
鏡は多分そうだとおろおろして言った。王子は人工呼吸をしてリンゴを姫の喉から取り除いた。姫は生き返った。
お妃は気が抜けてふらふらになった。ふと鏡をみるとしわだらけになって世界で一番醜い女となった。お妃は死ぬ前に姫に
「おてんばでもいいわ。ただ、国は守ってね。この国が平和で幸せでありますように」
と言って鏡を差し出した。姫は鏡を受け取った。そして姫はその鏡を大事に持ち、代々の姫に渡すよう命じ、国を守った。