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佳作「ハッピーさんに会いに 香久山ゆみ」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第19回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「ハッピーさんに会いに 香久山ゆみ」

ついてない。何もかも思い通りにいかない。

楽しいことなんて、何もない。と、悶々と日々を過ごしていたところ、ハッピーさんの噂を聞いた。すこぶる幸せな人物で、見る者に元気を与えるという。それはぜひ会ってみたいものだ。と、ぼんやり歩いていたところ、路傍にカンバンを見つけた。

『ハッピーさん

コチラ?』

お。ハッピーさんの講演会か、舞台か何かだろうか。

ぜひ幸せの秘訣をご教授願いたいものだと思い、いそいそ案内板の指す方へ足を向けた。

さすが時の人。ハッピーさん人気は絶大のようで、同じ方向へぞろぞろ人の流れができている。

しばらく行くと、次の案内板が現れた。

『ハッピーさんは前進する

コチラ?』

講演テーマか、舞台のタイトルか。とても前向きじゃないか。その頼もしさに、足どりも軽くなる。

が、案内板通り進むも、なかなか目的地には着かないし、次の案内板もない。しまった、これは道に迷ったか。不安になる。しかし、同じ方向に進む人は大勢いる。大丈夫だと思うが、念のため、人に訊ねてみることにした。

「あの、すみません。ハッピーさんはこっちの方向で合っていますか」

紳士然とした男性は、にっこり笑って、前方を指差した。

『ハッピーさんはものおじしない

コチラ?』

なるほど。紳士に礼を述べ、僕もにっこり微笑み返した。

案内板にしたがって、進む。

歩く、歩く。ずいぶん歩くが、何もない。今度は一本道だし、道を間違えたということはあるまい。まあ日頃の運動不足の解消だと思い、汗をかきかき歩き続ける。が、さすがに十五分経ち、三十分経ち、となると、諦めて引き返していく人も多い。同行の士はけっこう減ってしまったようだ。僕はとういうと、なかば意地のようになって、さらに進む。ここまで来て諦めるなんて悔しいじゃないか。せめてハッピーさんの顔だけでも拝んでやろうという気持ち。

ずいぶん人が減って、こんなんで講演会は赤字にならないかしらと心配になった頃、ようやく次の案内板が現れた。

『ハッピーさんはあきらめない

コチラ?』

このカンバンを見て、まだ歩くのかと悲鳴を上げて脱落する者もいたが、僕はむしろ案内板の登場に安堵した思いで先を進んだ。

『ハッピーさんは争わない

コチラ?』

『ハッピーさんは後悔しない

コチラ?』

『ハッピーさんは感謝する

コチラ?』

その後も、いくつもの案内板があり、それにしたがって進んだ。なんだかゲームをしているみたいな感覚になってきた。退屈な毎日の中、ちょうどいい暇つぶしって感じ。

さらに進むと、ようやく広場に出た。奥には大きな舞台がある。野外公演というのもオツなものだ。周りを見回すと、おや、僕以外に誰もいない。はてなく歩くうちに皆諦めてしまったのだろうか。と、

パンパカパーン。

大きなファンファーレが鳴った。よかった。たった一人の観客のためにも公演は開かれるようだ。安心して腰を下ろそうとしたところ、突然タキシードの男に肩を組まれて、無理矢理舞台の上に引きずり出された。タキシードは朗らかな声を上げる。

「おめでとうございます! あなたがハッピーさんです!」

舞台袖から現れたバニーガールが、僕の首にぐいぐいメダルを掛けようとする。

は? なんだ? わけが分からない。体を仰け反らせ逃れようとする僕の肩を、タキシードががっしり固める。

「ほらほら、第一回ハッピーさんコンテスト、ここまでたどり着いたのはあなただけなんですから。あなたが優勝なんですよ、ハッピーさん!」

タキシードが満面の笑みを向ける。

予期せぬ混乱の中、なんだか納得いかずにいると、ぽとりと、空から白い鳩の祝福が。……なるほど、良いも悪いも紙一重。ウンもついたことだし、なるようになるか。と思って、ようやくバニーガールからメダルを受け取ったところ、頭上の横断幕が目に入った。

『ハッピーさんはすべてを受け入れる

こちら?』