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佳作「掘るな 瀧なつ子」

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作文・エッセイ
結果発表
TO-BE小説工房
第19回 阿刀田高のTO-BE小説工房 佳作「掘るな 瀧なつ子」

「なあ、スーパーのとなりの緑地の札、見た?」

教室に入ってくるなり、伊志は挨拶もなしにミナトの席にやってきた。

「札?」

その緑地は、ミナトも毎日通る。あそこは都心に似つかわしくない鬱蒼と木々が生い茂った場所で、私有地だということは最近知った。

「気付かなかった?昨日までなかったのにさ、急に札が立ったんだよ。『掘るな』って」

「え、『掘るな』?『立ち入り禁止』じゃなくて?」

「『立ち入り禁止』の札はずっと前からあんじゃん」

今朝も通ったが、全く気がつかなかった。

「なんだろうな、『掘るな』って。そんなこと言われなくても、あんな所わざわざ掘る奴いないのにな」

伊志の目が好奇心に満ちているのが、長い付き合いのミナトには分かる。

放課後、ミナトは伊志にしつこく札を見に行こうと誘われた。

どうせ緑地は帰り道だ。ミナトは伊志と一緒に緑地に向かった。

「ほら、あそこ、あそこ!」

緑地に差し掛かると、伊志は駆け出した。

その姿が中三には見えず、ミナトはちょっとあきれてしまう。

早く早くと言わんばかりに手招きする伊志には構わず、ミナトは歩いてそこまで近づいた。

「本当だ」

伊志が言ったとおり、そこには「掘るな」と注意書きが立てられていた。ただ、伊志の「札」ということばからミナトはてっきり木でできた手書きのものを想像していたが、違った。それは札というよりは、標識のようで、既製品みたいなしっかりとしたものだ。

「何だと思う、これ?」

「さあね。なんか、だれかが不法侵入してどっか掘っちゃたんじゃないの?」

「そうかなあ。でももしそうだったら、『通報します』とかじゃない?」

伊志にしては的を射た意見だ。

確かにそんな奴がいたら、学校で注意があっても良さそうだ。

「ここの土地の人が、何か埋めたのかもしれない」

私有地を囲っている網を握りしめ、木々の間を見つめながら伊志がつぶやいた。

「まさか」

ミナトはそれ以上伊志を相手にするのはやめて、家路に着いた。

しかし、翌日も翌々日も伊志の標識への関心は収まらなかった。それどころか、熱はますます高まっていき、伊志はもう緑地に何かが埋まっていると信じきっていた。

「なあ、なんだと思う? 金かな。それとも死体かな」

変なことに首を突っ込まない方がいいと何度も忠告したが、伊志は聞かない。

ついには「掘りに行く」と言い出した。

こうなると止めることもままならず、一人で行かせることはもっとできなかった。

しかたなく、ミナトも伊志の好奇心に付き合うことにした。

夜半にシャベルと懐中電灯をもち、家を抜け出す。

標識の前まで行くと、すでに伊志がいた。待ちきれないようで、ミナトの姿を確認した途端、網に飛びついてよじ上り始めた。

後ろめたさと恐怖を抱きながら、ミナトもそれに続く。

「もっと奥だ。きっと、もっと奥だ」

伊志は、とりつかれたように懐中電灯で木々の根元を次々に確認しながら進んでいく。

「あ」

果たして、それはあった。

太い幹の根元が、一度掘り返したように土の状態がそこだけちがう。

「マジで掘るの?」

「うん」

ためらうことなく、伊志のシャベルが土をえぐる。

こうなるとミナトも止まらない。

本当に、本当に何か出てくるのか?

出てきて、それをどうするんだ?

ミナトの頭の中は迷いでいっぱいだったが、掘ることをやめることはできない。

ガサッ。

ミナトのシャベルが、明らかに土とはちがう感触のものに当たった。

二人とも息をのむ。

伊志の懐中電灯が、土にまみれた白い物を照らし出していた。